・・・ 良人は、ひろい背中を細君の方へ向け、脚をひらいて廊下に立ちパイプをふかしながら、 ――エピソードさ。 そういう返事をしている。 蒙古人の村はどこでも犬が多いな。――…… 列車は修繕のために二時間以上雪の中にとまっていた・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・だから現実に或るコルホーズに起ったエピソードであった。こんにちよみかえすと、小説としてはごく単純だけれども、それぞれの農村でコルホーズがどんな過程で組織されて行ったかということが、この一つの例によってわりあいによくわかる。その点が、いろいろ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・亀のチャーリーは相もかわらず貧乏で冬じゅう何も食わぬ二匹の亀の子とボロ靴下を乾したニューヨークの小部屋では五セントの鱈の頭を食って暮しているがピオニイルはゾクゾク殖えてゆくという物語を、五章からなるエピソード的構成で書いているのである。・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・その特殊な条件をもつ短い時期のうちにおこった一つ二つのエピソードを中心として、この作者の全心から流れ出す初々しい生の感覚と愛の諧調で全篇がつらぬかれている。おのずからなる抒情的でメロディアスな筆致は、わたしの作品の全系列の中にあっても類の少・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・しかし、あなたの場合、いますぐ小説としてまとめられないとしても、さしあたっては、備忘録風なノートとしてでもいいから、書きたいと思っているいくつかの事件のあらましやエピソード、自分の心持などを書きとめておくことは大事です。時が経てば帰還後の生・・・ 宮本百合子 「結論をいそがないで」
・・・ときかれて、ヴォルテールの言葉を写す方を選んだエピソードも生れた。彼等が幾百ぺんかかきうつしたヴォルテールの言葉というのは次の文句であった。「わたしは君の意見に全く反対である。けれども君がそれを話すという権利は飽くまでも守るであろう。」・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 無数のエピソードと階級的献身によって豊富なロシア革命史の中からはスハーノフの「一九一七年」、ムスティスラフスキーの「血」、キルションの「風の町」等がある。 ソヴェト同盟の興味ある日常生活の中から日常的な事件をとりあげ、それを階級的・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・読者は、このエピソードに、ソヴェトの人々の四角四面で素朴な合理主義が、スタインベックの練達した話術のトリックにかかるモメントを目撃しないわけに行かない。そして、このエピソードにおけるスタインベックの成功を慶賀するよりも、現代においてすぐれた・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・著者がその惨苦に耐えた火のような生きる意欲そのもののはげしさ、生存のためにむきだしにたたかった、それなりの率直さで、現象から現象へ、エピソードからエピソードへと押しきる流れで語られている。 読者は次々と展開する插話にひきいれられて、口を・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・デニキン、コルチャック、ウランゲルらによる国内戦と飢饉と大移動と、それにたいするボルシェヴィキの奮闘などは、ロシアの全人民に無限の経験とエピソードとをもたらした。全人口が「語るべき何事かを」生きたのであった。私たちに近親な作家として、たとえ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫