・・・それに、その容貌が前にも言ったとおり、このうえもなく蛮カラなので、いよいよそれが好いコントラストをなして、あの顔で、どうしてああだろう、打ち見たところは、いかな猛獣とでも闘うというような風采と体格とを持っているのに……。これも造化の戯れの一・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・最初に登場する寺子屋の寺子らははなはだ無邪気でグロテスクなお化けたちであるが、この悲劇への序曲として後にきたるべきもののコントラストとしての存在である以上は、こうした粗末な下手な子供人形のほうが、あるいはかえって生きたよだれくりどもよりよい・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・ この上記の点で著しく対蹠的のコントラストを形成するものは、日本の剣劇映画における立ち回りの場面である。超自然的スピードをもって白刃と人形とが場面に入り乱れて旋渦のごとく回転する。すると、過去何百年来歌舞伎や講談やの因襲的教条によって確・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これに対する向い側の壁に大分猛烈な絵が並んでいるので、コントラストの作用で一層この人の絵が静かに上品に見える。しかし自分には何だか完全に腑に落ち切らない一種の物足りなさが感ぜられる。この上品さを徹底させると結局何も描かないのが一番上品だとい・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・これはコントラストのせいであろう。これほど著しい色彩の変化が都人の心に何かの影響を及ぼさないはずはないという気がする。 実際は東京の空気は年々に濁るはずである。自動車のガソリンの煙だけでも霧の凝縮核を供給することはたいしたものであろう。・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・先生はその頃もう四十を越えておられ、一見哲学者らしく、前任者とコントラストであった。最初にショーペンハウエルについて何か講義せられたように記憶している。この先生の講義はブッセ教授と異って机に坐ったままで低声で話された。ケーベルさんは始めて日・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・上陸した嬉しさと歩行く事も出来ぬ悲しさとで今まで煩悶して居た頭脳は、祭礼の中を釣台で通るというコントラストに逢うてまた一層煩悶の度を高めた。丁度灯ともし頃神戸病院へ著いた。入院の手続は連の人が既にしてくれたので直に二階のある一室へ這入った。・・・ 正岡子規 「病」
・・・未開なバリ島の性の祭典には、けがされない性の陶酔があり、主人公のところに東京のひきさかれた生存の頽廃があるというコントラストだけがとらえられても、従属させられている男女の社会生活におけるヒューマニティーの課題はこたえられきれない。 ・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ 十月十四日夜 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 長野県上林温泉より〕 このエハガキに描かれているところは今は一面の段々の田で、稲が実り、背景の濃い杉山とつよい色調のコントラストです。多分この左手の方に一米十円をかけたという一万メート・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 女主人公アサとの対照として作者は用意ふかく愛子、シゲという二つのタイプを描き出し、結婚に対する態度、工場の高度の技術化のためにおこる解版女工の失業についての身のふりかたにコントラストを示している。どうせ共稼ぎの結婚なんて馬鹿くさくて、・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
出典:青空文庫