・・・青いシェードを掛けた電球がひとつ、改札口の棚を暗く照らしていた。薄よごれたなにかのポスターの絵がふと眼にはいり、にわかに夜の更けた感じだった。 駅をでると、いきなり暗闇につつまれた。 提灯が物影から飛び出して来た。温泉へ来たのかとい・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・光線に対しては乳色ガラスのランプシェードのように光を弱めずに拡散する効果があり、風に対してもその力を弱めてしかも適宜な空気の流通を調節する効果をもっている。 日本の家は南洋風で夏向きにできているから日本人は南洋から来たのだという説を立て・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・一人石をひろうところ見たんだが…… モスクワを出た時車掌が入って来て、急いで窓のシェードを引きおろし、 ――こうしとかなくちゃいけません。と云った。 ――何故? ――石をなげつけるんです。 自分は信じられなかったから・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・二階の窓からは雨にぬれた銀杏樹の並木、いろんな傘をさした人の往来、前の電気屋のショーウィンドに円いオレンジ色のシェードが飾ってあるの等、活々と一種の物珍らしい美しさで暗い、臭いところから出て来た目に映った。 やがて、母親が室の外をのぞく・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 私は立ってシェードを押して、又よみかけの本をよみ始めた。 幾分か経ったろう、読みふけて居って自分は、いきなりバサリと音を立てながら、傍にのべた紙に落ちた虫の羽音に驚かされた。 夜更けるまで仕事をして、少し頭がつかれたとき人はひ・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・此と云う思いつきもありませんけれども、置電燈丈で室内を照した時、そのシェードの色調によって、全体が、穏やかな、柔かい感じとなるものがよいでしょう。 寝室だけは、絶対に朝、明けないうちから戸外の日光が入らなくしとうございます。眩しくて眼の・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・ 夕方の六時、シェードのないスタンドの光を直かにてりかえす天井を眺めつつ口をあいて私はYにスープをやしなって貰って居る。 わきの寝台に腰をかけ、前へ引きよせた椅子の上に新聞をひろげ、バター、キューリ、ゆで卵子二つ、茶でファイエルマン・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
出典:青空文庫