・・・――これは、「ナザレの木匠の子」の教を信じない、ヨセフの心にさえ異常な印象を与えた。彼の言葉を借りれば、「それがしも、その頃やはり御主の眼を見る度に、何となくなつかしい気が起ったものでござる。大方死んだ兄と、よう似た眼をしていられたせいでも・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・その証拠にはナザレの大工の子は、四十日の断食しかしなかったようである。 又 悉達多は車匿に馬轡を執らせ、潜かに王城を後ろにした。が、彼の思弁癖は屡彼をメランコリアに沈ましめたと云うことである。すると王城を忍び出た後、ほっ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・あたかもあのナザレのイエスがイザヤの予言にかなわせんため、自己をキリストと自覚したのと同じように。釈迦の予言によれば、釈迦滅後、五百歳ずつを一区画として、正法千年、像法千年を経て第五の末法の五百年に、「我が法の中に於て、闘諍言訟して白法隠没・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫