・・・しかし生来の烈しい気性のためか、この発作がヒステリーに変わって、泣き崩れて理性を失うというような所はなかった。父が自分の仕事や家のことなどで心配したり当惑したりするような場合に、母がそれを励まし助けたことがしばしばあった。後に母の母が同棲す・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・――ですがもうその時分から、ヒステリーではないのかしら、少し気が変だと言われました。……貴方、お察し下さいまし。……私は全く気が変になりました。貴方が御結婚を遊ばして、あとまる一年、ただ湧くものは涙ばかり、うるさく伸びるものは髪ばかり。座敷・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・私がヒステリー起こした時は、ご飯かて、たいてくれます。洗濯かて、せえ言うたら、してくれます。ほんまによう機嫌とります。けど、あんまり機嫌とられると、いやですねん。なんやこう、むく犬の尾が顔にあたったみたいで、気色がわるうてわるうてかないませ・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・石田の細君はヒステリーで彼女に辛く当った。なんだい、あんなお内儀と、石田を取ってやるのがいい気味であり、そしてもう石田を細君の手に渡したくなかった。二人の仲はすぐ細君に知れて、彼女は暇を取り、尾久町の待合「まさき」で石田に会った。情痴の限り・・・ 織田作之助 「世相」
・・・自分がヒステリーになったかと思ったくらい、きつく折檻した。しかし、私がそんな手荒なことをしたと言って、誰も責めないでほしい。私の身になってみたら、誰でも一度はそんな風にしたくなる筈だ。といっても、私の言ってるのは、何もただ質入れのことだけじ・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・極端な束縛とヒステリーとは夫の人物を小さくし、その羽翼をぐばかりでなく、また男性に対する目と趣味との洗練されてないことを示すものに外ならない。 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・窮乏せる結婚生活が恋愛の墓場であるにしても、オールドミスの孤独地獄よりはなおまさっている。ヒステリーに陥らずに、瘠我慢の朗らかさを保ち得るものが幾人あろう。 倉田百三 「婦人と職業」
・・・ 狂人やヒステリー患者の病的な笑いはどうであろう。これは第一自分の経験もないし、また観察すべき材料も手近にないからよくはわからないが、たとえば女のからだのある変化に随伴して起こりがちなヒステリーなどは、鬱積した活力が充分に発現されないた・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・何だヒステリーをおこして、という。ジャンヌ・ダルクがフランスのために乙女の長い髪を切り、甲冑をつけ馬にのって戦ったあと、イギリス軍に捕えられて火あぶりとなった。そのときの罪は、神の定めた女という性を、男のまねをしてけがしたという、宗教裁判で・・・ 宮本百合子 「「女らしさ」とは」
・・・そうだからこそ、こんにち、ラジオや出版物で戦争を挑発し、戦争ヒステリーに感染させようとしている者どもは、この地球のどこかに、この次の戦争に利用されていい民族、あるいは人民の群が存在してでもいるかのような云いかたをしています。自分のところは無・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
出典:青空文庫