・・・しかして小鳥のように半分開いたこの子の口からキスを一つもらいました。しかしてヒヤシンスのように青いこの子の目で見やられると、母の美しい顔は、子どもと同じな心置きのない無邪気さに返って、まるで太陽の下に置かれた幼児のように見えました。「こ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・チュリップ、ヒヤシンス、ベコニヤなどもダリヤと同じく珍奇なる異草として尊まれていたが、いつか普及せられてコスモスの流行るころには、西河岸の地蔵尊、虎ノ門の金毘羅などの縁日にも、アセチリンの悪臭鼻を突く燈火の下に陳列されるようになっていた。・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・つき当りの窓に水栽培のヒヤシンスの瓶などがかざってある。 子供たちから見ると丁度お祖母さんぐらいの年恰好の女先生が、きれいな白髪で、しかし元気そうな顔つきで出て来ました。「ようこそ! 子供たちはさっきから待っていましたよ。どうしてお・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・ 湿りけのぬけない煉瓦が、柔らかな赤茶色に光って見える建物の傍に、花をつけた蜜柑が芳しい影をなげ、パンジー、アネモネ、ヒヤシンスと、美くしい色と色とを反映させながら咲き続いた花壇の果は、ズーッと開いて、折々こぼれるような笑声につれて、ま・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 彼女は呆やりストーブの傍の椅子に寄りかかって小さい鉢植えのヒヤシンスのクルクルした花をながめて、彼の日――その花を三丁目の辻村に買いに行った日大層天気がよくて私はどんなに喜んであの通りを歩いて居ただろうとその様な事やほんとにこの一週間・・・ 宮本百合子 「二月七日」
出典:青空文庫