・・・ているのだな、と実状が薄ぼんやり判って来て、私が今まで、おたふく、おたふくと言って、すべてに自信が無い態を装っていたが、けれども、やはり自分の皮膚だけを、それだけは、こっそり、いとおしみ、それが唯一のプライドだったのだということを、いま知ら・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・いつわりでよし、プライドを、自由を、青草原を! 尚、ここに名を録すにも価せぬ……のその閨に於ける鼻たかだかの手柄話に就いては、私、一笑し去りて、余は、われより年若き、骨たくましきものに、世界歴史はじまりて、このかた、一筋に高く潔く直く燃・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・しんから愛している人のいのちを取りとめる為には、自分のプライドも何も、全部捨て売りにしても悔いない王子さま。けなげでもあり、また純真可憐な王子さま。老婆は、にやりと笑いました。「よろしい。ラプンツェルを、末永く生かして置いてあげましょう・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・そうして何かしら小さな観察をし小さな発見をすることによってめいめいの小さなかわいいプライドを満足させているように思われる。 雲取池のみぎわのベンチに、五十格好の婦人が腰かけて、ハンケチで半面をおおったまま、いつまでもじっとして池の面をな・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
出典:青空文庫