・・・季節はずれの扇子などを持っていた。ポマードでぴったりつけた頭髪を二三本指の先で揉みながら、「じつはお宅の何を小生の……」 妻にいただきたいと申し出でた。 金助がお君に、お前は、と訊くと、お君は、おそらく物心ついてからの口癖である・・・ 織田作之助 「雨」
・・・都ホテルや京都ホテルで嗅いだ男のポマードの匂いよりも、野暮天で糞真面目ゆえ「お寺さん」で通っている醜男の寺田に作ってやる味噌汁の匂いの方が、貧しかった実家の破れ障子をふと想い出させるような沁々した幼心のなつかしさだと、一代も一皮剥げば古い女・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・中風で寝ている父親に代って柳吉が切り廻している商売というのが、理髪店向きの石鹸、クリーム、チック、ポマード、美顔水、ふけとりなどの卸問屋であると聞いて、散髪屋へ顔を剃りに行っても、其店で使っている化粧品のマークに気をつけるようになった。ある・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・としは私より二つ三つ多い筈だが、額がせまく漆黒の美髪には、いつもポマードがこってりと塗られ、新しい形の縁無し眼鏡をかけ、おまけに頬は桜色と来ているので、かえって私より四つ五つ年下のようにも見えた。痩型で、小柄な人であったが、その服装には、そ・・・ 太宰治 「女神」
出典:青空文庫