・・・あれであなたから都会人の感傷性とをマイナスすれば当然ソシアリストになる人柄です……と云うと胸が悪くなりますか。」 女の掠があった時代の書簡であるから、胸が悪くなる云々の言葉は今日にあっては、その時代の背景の前に解釈されなければなるまい。・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・で、あなたは、あなたをして書かしめている境遇のプラスな面と、あなたをして書くことを得ざらしめているマイナスの面、限界とを、驚くべき率直さでおのずから示されているのですから。そして、賢明なあなたは、そういう意味であの作品が含有している作家史的・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・プラスであると共にマイナスなもの、彼を一応音楽家たらしめているが大音楽家たらしめぬ、というような矛盾がふくまれていることを感じます。例えば作品や技法の上で新しいものを追求しようという熱心さと、その新しいものの質の探求や新しさの発生の根源を人・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
・・・まして、大局ではマイナスの作用をしつつ、目前ともかくプラスである協力者をもたず、或は良人と自身との画境をはっきり弁えて自力の成熟をしようと心がけている若い少数の婦人画家たちは、現在の常識ではどっちを向いても損であり苦しいということになる。・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・この間のお手紙をよんで、面会のとき、それでは苦しくていらしたろうし、又却って歩いたり立っていたりなすった丈本当の意味ではマイナスになったのだったと残念でした。国男はやっときのう退院してかえりました。まだつとめには出ません。晒木綿の腹帯を巻い・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・私は私にとって一番そのプラス・マイナスについて遠慮なく語れる自分の四年間の文学実験について、そこにあらわれた問題を内と外との関係から見て行こうとする。 二「伸子」が書かれたのは一九二四年―六年のことであった・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・過去の文学運動のプラスとマイナスとに対する慎重な反省から目を逸らさせ、真面目な再吟味の根気を失わせられたことは、それらの作家たちが過去において率直に傾け示した自身の努力、人間的善意の価値に自信を失わせる結果となり、従って、プロレタリア文学運・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・揉まれながら、一家の生活を負担し、今やますます広汎に生産の一部をも負担している女は、生活経験によって実力を靭められ、逞しくされながら、その間に自分たちの内と外とにのこされている社会的なマイナス、おくれている要素を高めつつ進まなければならない・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・忌憚なく云えば、石原氏がナチとソ連の科学政策をその現実の本質につき入って比較する力を欠いておられる事実なども、社会悪が最も複雑微妙な作用としてあらわれて来ているところの科学精神における一つの決定的マイナスなのである。 科学精神における、・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・そのための精力の消費が、夫として、あるいは父親としての漱石の態度に、マイナスとして現われるということはあり得たのである。漱石を気違いじみた癇癪持ちと感じることは、夫人や子供たちの側からは、それ相応に理由のあることであろう。漱石に対する理解や・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫