・・・それから Geld Suchen im Mehl というのは、洗面鉢へ盛ったメリケン粉の中へ顔を突っ込んで中へ隠してある銀貨を口で捜して取り出すのである。やっと捜し出してまっ白になった顔をあげて、口にたまった粉を吐き出しているところはたしか・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・帽子を引き千切るようにとって、そいつを下に叩きつけた。メリケン粉の袋のようなズボンの一方が、九十度だけ前方へ撥ね上った。その足の先にあった、木魚頭がグラッと揺れると、そこに一人分だけの棒を引き抜いた後のような穴が出来た。「同志! 突破し・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ニュウヨウクのメリケン粉株式会社から贈られたのだ。」特務曹長「そうでありますか。愕くべきであります。」特務曹長「次はどれでありますか。」大将「これじゃ、」特務曹長「実にめずらしくあります。やはり支那戦争であります・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ 諸君がどんなに頑張って、馬鈴薯とキャベジ、メリケン粉ぐらいを食っていようと、海岸ではあんまりたくさん魚がとれて困る。折角死んでも、それを食べて呉れる人もなし、可哀そうに、魚はみんなシャベルで釜になげ込まれ、煮えるとすくわれて、締木にか・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・私は萱の葉の混んだ所から無理にのぞいて見ましたら二人ともメリケン粉の袋のようなものを小わきにかかえてその口の結び目を立ったまま解いているのでした。「この辺でよかろうな。」一人が云いました。「うん、いいだろう。」も一人が答えたと思うと・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・ さほ子はメリケン粉をこねながら、千代が、来た時と同じ華やかなメリンス羽織を着ているのを認めた。「ふだんはね、其那奇麗ななりをしないでいいのよ。さっぱり働きいい方が好いからね」 千代は、桃色の襟をのぞかせたエプロンの上に両手を重・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・それどころか、アメリカから買い込んだメリケン粉袋が埠頭に積んであるというデマさえ飛んだ。 これは、富農と買占人の奸策が成功した結果であった。 前の年から、ソヴェト政府が累進税で富農の私有財産制への実際上の復帰を統制しはじめた。その復・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・その満足をひとに強要し得る時代の柄のわるさとして反映する代用食のようなものは実際上のこころみなのだから、炭の不足、砂糖、メリケン粉の不足な現在を考慮してはじめて実質な意味を持つのであると思う。 四 恩給と未亡人 ・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫