・・・私は笑えなかったが、日本の春画がつねにユーモラスな筆致で描かれている理由を納得したと思った。「リアリズムの極致なユーモアだよ」とその当時私は友人の顔を見るたび言っていたが、無論お定の事件からこんな文学論を引き出すのは、脱線であったろう。・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 恋愛を一種の熱病と見て、解熱剤を用意して臨むことを教え、もしくは造化の神のいたずらと見てユーモラスに取り扱うという態度も、私の素質には不釣り合いのことであろう。 かようにして浪曼的理想主義者としての私の、恋愛運命論を腹の底に持って・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・そんなに人におどろかれるわたしの素朴さというものがわからなかった。そんなユーモラスな一つの記録も、こんにちよめば、制服の警官が臨監して、中止! 中止! と叫ぶ場内の光景はいきいきと目にうかんで来る。われわれの文学史の、これが生きた一頁であっ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・におけるゲーブルとクロフォードとのユーモラスなものの下に語られる男の真心というようなものの方がさっぱりしていて、笑えるだけでも成功であったと思う。ぎょうぎょうしくて、しかも愚劣であったのは「恋人の日記」である。 映画における恋愛的な場面・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・その過程にイリフ、ペトロフは極めてユーモラスで辛辣で明快な調子で、ソヴェト社会の旧い考え旧い生きかたの諷刺を行っている。オスタップ・ベンデル自身の山師としての社会的存在の意義も、彼の哀れな失敗そのもので容赦なく批判されているのである。 ・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・正直だということ、謙遜で熱心であるということ、ユーモラスで人気を集めている、ということなど。だが、トルーマンはそういう個人の人柄で当選したのではなかった。日本の新首相のように、へたぐされしてばたばたと墜ちてゆく諸政党のわきにひかえて、時期を・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・本来の日本のユーモラスであり腹立たしい人生が見せられたからである。佐藤春夫の「人間天皇の微笑」に対して林房雄は罵らないだろう。これらにはいかなる人生もないから。いわゆるふちの飾りしかないのだから。 文学らしい言葉で云われている林房雄・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・一平さんが、人生漫画を描いていられる頃であったか、カルピスは初恋の味というような文句のついたユーモラスな絵が一平画とサインされてあったのは新聞などで見かけていたのだろう。そのカルピスが、かの子さんによって重々しく出されたので、そこに又ユーモ・・・ 宮本百合子 「作品の血脈」
・・・ハウス・ワイフのかわりに、何か社会的勤労にふさわしいよび名がないかといって、いろいろユーモラスな案もでていました。 現代のすべての婦人は、家庭と職業を両立させたいという根本の希望で目前の苦しみや不便に耐えながら闘っていると思います。そし・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・ 公然と条理をもって、しかも人間的機智と明察をもって、どこまでもユーモラスに、だが誰憚らぬ正気な状態において諷刺文学がありうる処と時代に、スカートの中を下からのぞくようなゲラゲラ笑いが、笑う人間の心を晴やかにするとは思われない。自分たち・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
出典:青空文庫