・・・シナリオ・ライターも同様で、日本の映画が見るに堪えぬ最大の原因は彼等の書く科白のまずさである。科白のまずいというのは、結局不勉強、仕事の投げやりに原因するのだろうが、一つには紋切型に頼っても平気だという彼等の鈍重な神経のせいであって、われわ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ 豹吉は何だかすかされたような気がして、「ありがとう。ライターの石がなくなっちゃったもんだから……」 少年らしい虚栄だった。 煙草を吸うくせにマッチを持たぬのかと思われるのは、癪だと思ったのだ。すると、「下手な東京弁を使・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・それからチョッキのかくしからライターをぬき出して顔の正面の「明視の距離」に持って来ておいてパチリと火ぶたを切る。すると小さな炎が明るい部屋の陽光にけおされて鈍く透明にともる。その薄明の中に、きわめて細かい星くずのような点々が燦爛として青白く・・・ 寺田寅彦 「詩と官能」
出典:青空文庫