・・・四百字詰原稿十五枚前後、内容はリアルに面白くお願いしたいと存じます。締切は、かならず、厳守して頂きたいと存じます。甚だ手紙で失礼ですが、ぜひ御承諾下さって御執筆のほど懇願いたします。『秘中の秘』編輯部。」「ははあ、蝙蝠は、あれは、む・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・「金魚も、ただ飼い放ち在るだけでは、月余の命、保たず。」 人、口々に言う。「リアル」と。問わむ、「何を以てか、リアルとなす。蓮の開花に際し、ぽんと音するか、せぬか、大問題、これ、リアルなりや。」「否。」「ナポレオンもまた、風邪をひき、乃・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・一毛に於いて差異はあっても、九牛に於いては、リアルであるというわけなのだ。もっとも私は、あの短篇小説に於いて、兄妹五人と、それから優しく賢明な御母堂に就いてだけ書いたばかりで、祖父ならびに祖母の事は、作品構成の都合上、無礼千万にも割愛してし・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・われらの祖父母のありし日の世界をそのままで目の前に浮かばせるような、リアルな時代物映画は見たことがない。チャンバラの果たし合いでも安芝居の立ち回りの引き写しで、ほんとうの命のやりとりらしいものはどこにも求められない。時局あて込みの幕末ものの・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・しかしこの概念的記述的なるものの連続の中には詩もなければ音楽もなく、何一つ生活の内面に立ち入ったリアルな生きた実相をつかまえてわれわれに教えてくれるものはないようである。つまり現代の映画の標準から見ればあまりに内容に乏しい恨みがあるのである・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・娯楽として見るにはあまりにリアルな自然そのものの迫力が強すぎるような気がする。神経の弱いものには軽い脳貧血を起こさせるほどである。こんな土の見えない岩ばかりの地面をひと月もつづけて見ていたらだれでも少し気が変になりはしないかという気がした。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・これに反して平凡な工場のリアルな器械の映画には実物を見るとはまたちがった深い味がある。見なれた平凡な器械でも適当に映出されるとそれが別な存在として現われ、実物では見のがしている内容が目に飛び込んで来るのである。 実物と同じに見せるという・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・その結果として、あらゆる描写記載にリアルな、生ま生ましい実感を求めることが困難である。馬琴自身の自嘲の辞と思われる文句が『胡蝶物語』にある。「そなたのやうな生物しり。……。唐山にはかういふ故事がある。……。和漢の書を引て瞽家を威し。しつたぶ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・それから、何という表題の書物であったか、若い僧侶が古い壁画か何かの裸体画を見て春の目覚めを感じるという場面を非常にリアルな表現をもって話して聞かせた事があった。その時の病子規は私には非常に若々しく水々しい人のように感ぜられた。 私は『仰・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・聞いただけで見たことのない実験がかなりリアルに描かれているのである。これも日本の文学者には珍しいと思う。 これに限らず一般科学に対しては深い興味をもっていて、特に科学の方法論的方面の話をするのを喜ばれた。文学の科学的研究方法といったよう・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
出典:青空文庫