・・・ このルネッサンス時代の芸術の古都フローレンスの逗留が、四十三歳であったケーテにどのような芸術上の収穫を与えただろうか。一九一〇年にこの旅行から帰ってから、第一次欧州大戦のはじまる迄の四年ばかり、ケーテは全く沈黙した。 六枚つづきの・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・その日本の感性的な知性が西欧のルネッサンスおよびそれ以後の人間開花の美に驚異したのが「白樺」の基調であった。 繋がれているものにとって、翔ぶという思いの切なさは、いかばかりだろう。低くあらしめられて、思いの鬱屈している精神にとって、高ま・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・そして、現代における大きい典型の再発見の妙味は、それが、ルネッサンスの世界、バルザックの世界にあるように、怪物同士、典型間の力の不均衡と矛盾を通してだけ見られているのではないという点である。頭をあげて、人民の理性が立ちあがったその眼が、その・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・見落されてはならず、日本におけるヒューマニズムの伝統の乏しさは、この点に関しても今日の日本のヒューマニストが、西欧のルネッサンス時代のヒューマニストが、中世紀宗教の重圧をはねかえして、人間精神と肉体との自由であった古代ギリシア文化の復興を叫・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・その権力の行為にはどんなスウィフトも描き出さなかった諷刺の対象があり、ルネッサンスのシェクスピアのヒューマニズムでは予見さえされなかった悲劇と笑劇のテーマがある。 わたしたちは、ほかならぬこの日本の土地に生れ、そこに生き、汗と涙と時たま・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・ 先生 ルネッサンス式の壮大な、単純と優雅とを調和させた大建築の前面に、厳然と立つアルマ・マターは、何と云うよき場所に置かれたのでございましょう。が、又このよき場所であるが故に、一層俗悪に見えるその黄金が、何と云う幻滅を感じさせます・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ヨーロッパの自然は、ギリシャ時代、ルネッサンスにあってはアポロだのジュピターだのという伝説の神々の仮名で重々しく擬人化され、美化され、中世紀は、たとえそれは栄光的であるとしても全く人為的な、神学の造化物として描かれた。あのように科学的天稟ゆ・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ヒューマニズムという言葉をきいた時、誰の胸にも浮ぶのはヨーロッパ文化に於ける文芸復興時代のヒューマニズムの多彩な開花であろう。ルネッサンスは中世の思想と社会が人間に強制していた種々の軛からの人間性の解放を叫んで、社会文化の各方面に驚くべき躍・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ こうして婦人のうけみな社会的立場をおのずから反映してうけみな対象として文学に導きいれられた婦人は、ルネッサンスの時代、文芸復興期になって、どういう変化をうけたろう。 ルネッサンスは、最も早く商業が発達して市民階級の経済的・政治的実・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・十四・五世紀、ルネッサンスの花がイタリーを中心としてヨーロッパに咲き乱れレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、シェイクスピアと人類の才能が開花したときの日本は、戦国時代だったことをはっきりと理解しなくてはならない。日本はもう鎖国していた・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
出典:青空文庫