・・・先を越してローマ字を使う人さえある。A それだけ混乱していたら沢山じゃないか。B うむ。そうすっとまだまだか。A まだまだ。日本は今三分の一まで来たところだよ。何もかも三分の一だ。所謂古い言葉と今の口語と比べてみても解る。正確に・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・だれの戯れから始まったともなく、もう幾つとなく細い線が引かれて、その一つ一つには頭文字だけをローマ字であらわして置くような、そんないたずらもしてある。「だれだい、この線は。」 と聞いてみると、末子のがあり、下女のお徳のがある。いつぞ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・数年前の「ローマ字世界」にも田丸先生が、この池のものについておかきになったのが出ている。先生がたのお手伝いをして、例の小船で調べて回ったこともあったが、とにかくおもしろい現象である。 先年水温を測る時の目じるしに、池の中のところどころに・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・ 十四 日本人の名前をローマ字で書くのにいろいろの流儀がある。しかしまだ誰も Toyo Tomi Hide Yosi という風に書く人はないようである。しかし、そう書いてはいけないという絶対的な理由はないよう・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・ほうの aprpya, apurva でも、やはり日本式ローマ字で書くと p+r+b(m) の部類にはいる。これらはサンスクリトとしてはきわめて明白に、それぞれ全く異なる根幹から生じたものであるのに、音のほうではどこか共通なものがあり、同時・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
子規の追憶については数年前『ホトトギス』にローマ字文を掲載してもらったことがある。今度これを書くのに参考したいと思って捜したが、その頃の雑誌が手許に見当らない。とにかく同じような事を二度は書きたくないから、前に書かなかった・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・しばらくして見に行って見ると、芝生の上にはねずみがかじったように、三角形や、片かなや、ローマ字などが表われていた。九歳になる女の子は裁縫用の鋏で丁寧に一尺四方ぐらいの部分を刈りひらいて、人差し指の根もとに大きなかわいい肉刺をこしらえていた。・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ただ自分の描き集めた若干の油絵だけがちょっと惜しいような気がしたのと、人から預かっていたローマ字書きの書物の原稿に責任を感じたくらいである。妻が三毛猫だけ連れてもう一匹の玉の方は置いて行こうと云ったら、子供等がどうしても連れて行くと云ってバ・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・この事については『ローマ字世界』の十二月号に詳しく述べるつもりであるから御参照を願いたい。 日本軍がシベリアへ出征するという場合でも、気象学上の知識は非常に必要である。彼の地における各時季の気温や、風向、晴雨日の割合などは勿論、些細な点・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・そういう事を頭においてだんだんに上記のいろいろの弦楽器の名前をローマ字書きに直して平面的あるいは立体的に並列させてみるとこれらはほとんど連続的な一つの系列を作る。これはたぶん偶然であるかもしれない。しかし万一そうでないかもしれない。かりに偶・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
出典:青空文庫