・・・この型を以て未来に臨むのは、天の展開する未来の内容を、人の頭で拵えた器に盛終せようと、あらかじめ待ち設けると一般である。器械的な自然界の現象のうち、尤も単調な重複を厭わざるものには、すぐこの型を応用して実生活の便宜を計る事が出来るかも知れな・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・世界と云えば、人は今尚十八世紀的に抽象的一般的世界を考えて居るのである。私の世界的世界形成と云うのは、各国家各民族がそれぞれの歴史的地盤に於て何処までも世界史的使命を果すことによって、即ちそれぞれの歴史的生命に生きることによって、世界が具体・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・でさへも、相当に成育した一般の文化常識と、特に敏感な詩人的感覚とを所有しない読者にとつては、決して理解し易い書物ではない。 ニイチェの理解に於ける困難さは、彼の初期に於ける少数の著書論文を除いて、その後の者が多くアフォリズムの形式で書か・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・然るに女大学は古来女子社会の宝書と崇められ、一般の教育に用いて女子を警しむるのみならず、女子が此教に従て萎縮すればするほど男子の為めに便利なるゆえ、男子の方が却て女大学の趣意を唱えて以て自身の我儘を恣にせんとするもの多し。或る地方の好色男子・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・〔『日本』明治三十二年三月二十三日〕 余は思う、曙覧の貧は一般文人の貧よりも更に貧にして、貧曙覧が安心の度は一般貧文人の安心よりも更に堅固なりと。けだし彼に不平なきに非るもその不平は国体の上における大不平にして衣食住に関する小不平に・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・「で一般に、この鶏の肉に限らず、鳥の肉には私たちの脳神経を養うに一番大事な燐がたくさんあるのです。」 こんなことは女学校の家事の本に書いてあることだ、やっぱり仲々程度が高い、ばかにできないと私は思いました。先生は又つづけます。「・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・として通過した日本のインテリゲンツィアの諸問題は、今日一般において決して著者が通過したようにはとおりすぎられていない。日本の文学感覚はまだもろく弱くて、文学といえば、人は理性の視点と水平なものとしてそれを感じないくせがある。戦争は、客観的な・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・家中一般の噂じゃというから、おぬしたちも聞いたに違いない。この弥一右衛門が腹は瓢箪に油を塗って切る腹じゃそうな。それじゃによって、おれは今瓢箪に油を塗って切ろうと思う。どうぞ皆で見届けてくれい」 市太夫も五太夫も島原の軍功で新知二百石を・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・そこで、感覚と新感覚との相違であるが、新感覚は、その触発体としての客観が純粋客観のみならず、一切の形式的仮象をも含み意識一般の孰れの表象内容をも含む統一体としての主観的客観から触発された感性的認識の質料の表徴であり、してその触発された感性的・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ このことは歴史画のみならず、一般に複雑な情緒や事件を現わす画についても言える。ある特殊な情緒に動いている人間の顔などは、モデルに頼ることができぬ。実生活のあるきわどい瞬間に画家の眼に烙きついた印象を生かすほかはないのである。そうしてそ・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫