・・・ 五 今度は、山のような落盤の上に下敷きとなっている十四人を掘り出さなきゃならなかった。洞窟の奥の真暗な横坑にふさぎ込められていた土田は、山を這い渡る途中に、又、第二の落盤でもありやしないか、びく/\しながら、小さ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・また、大きな岩と見えるものが墜落して来て、その下敷きになって一人の人間が隠れればその人はほんとうに圧死したものと考えられるのである。それは影に質量がなく従って運動量のないことを忘れているからである。 次に「空間」はどうなっているか。これ・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・ 歯の役目は食物を咀嚼し、敵にかみつき、パイプをくわえ、ラッパの口金をくちびるに押しつけるときの下敷きになる等のほかにもっともっと重大な仕事に関係している。それはわれわれの言語を組み立てている因子の中でも最も重要な子音のあるものの発音に・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ お前の轢殺車の道に横わるもの一切、農村は蹂られ、都市は破壊され、山野は裸にむしられ、あらゆる赤ん坊はその下敷きとなって、血を噴き出す。肉は飛び散る。お前はそれ等の血と肉とを、バケット・コンベヤーで、運び上げ、啜り啖い、轢殺車は地響き立・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ 半紙の下には、六つに仕切った罫の下敷があった。筆を握って瞬きもせずそのはっきりした四角な区切りを見つめていると、ひとりでに手が動いてどうしても右から先に落ちる。はっとする間もなく、私は次の一字も右側から先に書き出してしまった。 後・・・ 宮本百合子 「雲母片」
出典:青空文庫