・・・海軍問題以来山本伯の相場は大分下落し、漸く復活して頭を擡上げ掛けると、忽ち復た地震のためにピシャンコとなってしまったから、文壇の山本伯というは苔の下の二葉亭も余りありがたくないだろうが、風が何処か似通っている。山本権兵衛と見立てたのは必ずし・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・これを作った百姓の喜びは、やがて、市価の下落によって反対の悲哀を見なければならない。なぜなら商人は、彼等に対して、いつまでも搾取を惜まないからです。 考えれば、いろ/\な不条理がこの社会に存しています。 こればかりでない。もし都会に・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・ さいきん私は、からだ具合いを悪くして、実に久しぶりで、小さい盃でちびちび一級酒なるものを飲み、その変転のはげしさを思い、呆然として、わが身の下落の取りかえしのつかぬところまで来ている事をいまさらの如く思い知らされ、また同時に、身辺の世・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・仙人ではないが、まあ仙人に近い人間がいるそうだぐらいの評判で持ち切って下されば私もはなはだ満足の至りであったろうが、今日汽車電話の世の中ではすでに仙人そのものが消滅したから、仙人に近い人間の価値も自然下落して、商館の手代そのままの風采を残念・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・と戸の障子の隙間から寒い風が遠慮なく這込んで股から腰のあたりがたまらなく冷たい時や、板張の椅子が堅くって疝気持の尻のように痛くなるときや、自分の着ている着物がぜんぜん変色して来るにつれて自分がだんだん下落するような情ない心持のする時は、何の・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・平民と同格なるはすなわち下落ならんといえども、旧主人なる華族と同席して平伏せざるは昇進なり。下落を嫌わば平民に遠ざかるべし、これを止むる者なし。昇進を願わば華族に交るべし、またこれを妨る者なし。これに遠ざかるもこれに交るも、果してその身に何・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・第一次大戦後のドイツではこの一九二三年にあのインフレーション、マークの下落が起った。その情勢が、ドイツ・フランス等の大衆を団結させ、左翼の組織は拡大した。孫文派が広東政府を樹立し、中国国民党宣言を発表した。京漢鉄道総工会の成立大会を武力解散・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ 田舎新聞 ○「寒天益々低落 おい大変だぜ 寒天下落だよ 中央蚕糸 紅怨 紫恨 ◇二度の左褄 上諏訪二業 歌舞伎家ではさきに 宗之助 初代福助の菊五郎の二人が古巣恋しくて舞戻ったが、・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・今ではインテリの商品価値がブルジョア経済の上で下落して来た。文学で云えば、ブルジョアの社会が行き詰まったと一緒に、文化もほんとうの創造力を失って来たから、インテリ・ブルジョア文学が、一般的に云って退屈だ。面白くない。だからジャーナリズムは、・・・ 宮本百合子 「文壇はどうなる」
・・・然し、次第に調節がつき、物価が下落して来るにつれて、左様云う人々は、段々市内に戻って来たらしい。不便な処へ、盗難は保証されない。その上、可成、田舎らしくない金をとる家は、しめる、曲るで病気にもなりかねない。住む人に見すてられたような住宅は、・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫