・・・文学のひろびろとした発展のために無規準な地方色の偏重は不健全におちいるのであるが、その地方の生産に結びついている大衆の文学的欲求とその表現とがより潤沢に包括されればされるほど、その雑誌は文学の中に地方の現実の着実な観察を反映するものとなって・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・的な経験を生きた筈の一個の作家が、今日河童を語り、文学上に変化の変化たる所以の諷刺の通力さえ失ったまま、唯濃い墨の色と灰色との画面の色彩をたのしんで描き眺めるというようなことの裡には、文学として何かの不健全がある。 河童が幻想の生棲物だ・・・ 宮本百合子 「日本の河童」
・・・同時に、いまの日本に急速にひろがりつつある不健全な時代錯誤、特権生活への架空な憧れと嫉妬のまじりあったような風潮も、青春の敏感な自意識をむしばみつつある。卑俗な風俗小説のほとんどすべてが、読者の好奇をそそるために、闇の世界とえせの貴族趣味と・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・真面目な作家はそれを煩悶するとしても、然し積極的にそう云う不健全な社会を改革しようなどと云う熱情は、その階級性によって多く持っていないから、いたずらに感傷主義に浸るだけで、彼女等には正しい生活を建設しようとする気魄に欠けています。芸術作品は・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
・・・だが、今日国文学が文学研究の態度から見れば全く不健全な人為的隆盛めいた状態におかれ得る事情に、日本の諸文学研究の伝統中、従来国文学が最も弱い環の一つであったこと、そして、そこに向って今日文学外の力がかかって来ていることは特別な注目に価するこ・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・この時代、ゴーリキイはコロレンコに近づき、コロレンコに於て、信頼するに足るインテリゲンツィアのタイプを見出したのではあったが、当時の不健全な傾向として現れていた理論の遊びは、ゴーリキイをついに放浪の生活に誘惑した。処女作「マカール・チュード・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫