・・・事によると成親の卿は、浄海入道よりひがんでいるだけ、天下の政治には不向きかも知れぬ。おれはただ平家の天下は、ないに若かぬと云っただけじゃ。源平藤橘、どの天下も結局あるのはないに若かぬ。この島の土人を見るが好い。平家の代でも源氏の代でも、同じ・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・大抵は悪紙に描きなぐった泥画であるゆえ、田舎のお大尽や成金やお大名の座敷の床の間を飾るには不向きであるが、悪紙悪墨の中に燦めく奔放無礙の稀有の健腕が金屏風や錦襴表装のピカピカ光った画を睥睨威圧するは、丁度墨染の麻の衣の禅匠が役者のような緋の・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・その不合理不経済なところにポエトリーはあるが現代には少し不向きである。 今日は暑くて九十度を越したなどとというあの寒暖計、体温が三十九度もあるなどというあの寒暖計、それから風呂を四十度にしてくれなどというあの寒暖計、いずれもみな物理学上・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・しかしパイプ道楽は自分のような不精者には不向きである。結局世話のかからない「朝日」が一番である。 煙草の一番うまいのはやはり仕事に手をとられてみっしり働いて草臥れたあとの一服であろう。また仕事の合間の暇を盗んでの一服もそうである。学生時・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
出典:青空文庫