・・・ お互は互に、我々の生活が如何那に不純であるかを知って居る。よく知って居る。 そして、其の醜い、其の固陋な障壁を破ろうとして、何時から血の汗を掻きながら戈を振って来ただろう。 昨日も、今日も、明日も、明後日も。彼等は戈を振うだろ・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・何といおうか、人格の芯の芯まで光りが射し込み、自己内部に拘わっているものの純不純が一目瞭然とし、我というものに対して取るべき態度、延いては外界と自己との均衡がその時の最善に於てきっぱりと、わかったのです。 この位置のきまったという感は、・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・修行しようと云う望に、寄食しようと云う望が附帯しているとすると、F君の私を目ざして来た動機がだいぶ不純になってしまう。人間の行為に全く純粋な動機は殆ど無いとしても、F君の行為を催起した動機は、その不純の程度が稍甚しくはあるまいかと疑われる。・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・けれどもまた告白が不純である所には芸術の真実は栄えない。私の苦しむのは真に嘘をまじえない告白の困難である。この困難に打ち克った時には人はかなり鋭い心理家になっているだろう。今の私はなお自欺と自己弁護との痕跡を、十分消し去ることができない。自・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・私は徹底を要求するために、態度の不純に堪え得ないがために、ついに彼らを捨てた。――それを何ゆえに苦しむのか。 われわれのように小さい峠を乗り超えて来たものも、また自己を高める道の残酷であることを感じないではいられない。神の道は嶮しい、神・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・先生は相手の心の純不純をかなり鋭く直覚する。そうして相手の心を細かい隅々にわたって感得する。先生の心臓は活発にそれに反応するが、しかし先生はそれだけを露骨に発表することを好まなかった。先生は親切を陰でする、そうして顔を合わせた時にその親切に・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫