・・・けれどもガラスの疵の加減であるか、その二つの灯が離れて居ないで不規則に接続して見える。全くの無心でこの大きな火の影を見て居るとその火の中に俄に人の顔が現れた。 見ると西洋の画に善くある、眼の丸い、くるくるした子供の顔であった。それが忽ち・・・ 正岡子規 「ランプの影」
・・・漁家の収入と云えば、不規則なものときまっているらしいが、現在では一般にどんな改良が加えられているのだろうか。 自分たちは直接海へのり出して行かないで、その結果だけ待っていて家計をやりくってゆく漁村の女の暮しが楽でないことは、大正八年に米・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・その河が二股にわかれた北河岸に、不規則な三角形の城壁でとりまかれた一区廓は、全世界のブルジョアとプロレタリアートに一種の感銘をもってその名をひびかしているところのクレムリン。 この頃は城壁内の青草が茂って、ビザンチン式の古風な緑や茶色の・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・私の寝起きは、不規則になり勝ちなので、疲れて居る者の邪魔をするのは気の毒であり、気兼ねをするのも、時には不自由に感じますから。 寝室は、寝台、低いゆったりと鏡のついた化粧台。衣裳箪笥。壁はどんな色がよいか。此と云う思いつきもありませんけ・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・ ×夫人のところで不規則ながら収入のある仕事が与えられたという手紙が千鶴子から来た。間もなく使に出た家のものが、「すぐそこで小畑さんにお目にかかりましたよ」と帰って云った。朝だったので、はる子は附近に住む×氏を訪問したにしろ時刻・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・が前屈したり後屈したりして婦人が苦しむのは、勤労の不規則な条件からだけだ。長い時間腰をかけたっきりでいる――長い時間立ったぎりでいると、 また、仕事のひまがなくて長い間小便をがまんしていると――「子宮」は転位して婦人の不幸をもって来・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・炉の前にフイゴが放り出されていて、床は不規則なごろた石をうずめてある。一つ一つ色ちがいなその石の面を飛びわたって、父は隙間もなく日本字を埋めている。藻塩草 150 とかかれているところは窓のカーテンであり、無声と署名するのに、わざわざマント・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 生徒として、私は不規則な我まま者であったが、千葉先生の時間は、一度でもおろそかにしたことはなかった。この時間中だけ、平常妙に表面的に、形式的に扱われている人間と云うものが、真個に生き、意慾し、活動する生存とし、左右から見られ、切り下げ・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・煤をかぶった狭い不規則な地面の片端を利用した野菜畑。色さまざまの干物の一杯ある家屋の裏。汽車は高いところを走っているから、そういうゴミゴミした大都会の入口の町並一帯の直ぐ向うの広いコンクリの改正通りには均斉を保って街燈が立連り、トラックなど・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
一 婦人の生活が頽廃しているということがいわれはじめて、暫くになった。性的な面で、特に大都市の婦女子の生活が不規則になり、崩れているということについて注目されて来ている。それは私たちが現に目撃して・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
出典:青空文庫