・・・それで、もしや、拡散も波動も概括するような一つの大きな体系があって、その両極端の場合が不減衰波動と純粋な拡散とであって、その中間にいろいろなものが可能でありはしないかという空想が起こり得られる。ずっと昔、ケルヴィン卿が水の固定波か何かの問題・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・その練習をしている際に私の先生の手首と自分の手首とでは、手首の曲がる角度の変化の範囲はほぼ同じであるが、しかしその両極端の位置、従ってその平均の位置における角度がかなり著しく違うということに気がついたのである。それで、先生には最も自然で無理・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・二人は実に両極端を行きて毫も相似たるものあらず、これまた蕪村の特色として見ざるべけんや。 芭蕉も初めは菖蒲生り軒の鰯の髑髏のごとき理想的の句なきにあらざりしも、一たび古池の句に自家の立脚地を定めし後は、徹頭徹尾記実の一法に依りて・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ どっちが正しいのでございましょう、又何故、同じ、アメリカの婦人と云う対象に向って、両極端の批判がなされるかと云うと、第一の原因は、その観察者が多くの場合に、総て男性だからと云う事に大きな理由を持って居ると思います。 女子教育の視察・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 他の雑誌では、機械工として働いている若い娘さんたちの姿、男がわりに田の植付けをしている娘さんたちの姿がうつし出されていて、両極端の現実に生きている娘さんたちは、互に心の底で何てちがう生活だろうと感じながら、しかし格別責任もない消費的な・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・そこには嘘と真実との両極端が現われているのに、彼らはそれを嗅ぎわける力を持たない。そうして自分たちよりもはるかに深く自然をつかんでいるものに対して、自然に即けと忠告するのである。 すべてこれらのことは彼らの内生の浅薄貧弱から生まれている・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫