・・・そこでツェねずみはしかたなしに、こんどは、柱だの、こわれたちりとりだの、バケツだの、ほうきだのと交際をはじめました。中でも柱とは、いちばん仲よくしていました。 柱がある日、ツェねずみに言いました。「ツェねずみさん、もうじき冬になるね・・・ 宮沢賢治 「ツェねずみ」
・・・中にはそうとう大きい同人雑誌も少くありません。中でも特徴的な出版は鎌倉文庫の出版であります。ヨーロッパ文学の歴史の中でも経済力のある作家たちが集って、自分たちの出版雑誌社をもったことはたびたびあります。しかしその場合ほとんどすべてが商業主義・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
偉大な作家の生涯の記録とその作品とによって今日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯というものは、後代、文学運動の上に何かの意味・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・近隣の三部落も全農支部を組織して勇敢に闘争している。中でもこの部落は四・一六と二・一六とに犠牲者を出した。組合員は地主との闘争の焦点をハッキリ土地問題において勇敢にやっているのだ。部落の小作料はもう五年間も未納だ。 × この一見・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
・・・彼から学ぶべきことは非常に多い。中でも彼の全生涯を回顧してわれわれに大きい暗示を与えると思うのは、彼の初期の作品に現われていた誰知らぬものもないロマンティックな要素と、それの発展の過程である。 ゴーリキイが沢山かいている自伝的要素の多い・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
・・・人間は誰でも少しは狂人を自分の中に持っているものだという名言は、忘れられないことの一つだが、中でもこれは、かき消えていく多くの記憶の中で、ますます鮮明に膨れあがって来る一種異様な記憶であった。 それも新緑の噴き出て来た晩春のある日のこと・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ さてそのつもりでこの時代の物語を読んで行くと、時々あっと驚くような内容のものに突き当たる。中でも最も驚いたのは、苦しむ神、蘇りの神を主題としたものであった。 その一つは『熊野の本地』である。これは日本の神社のうちでも最も有名なもの・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
わたくしは歌のことはよくわからず、広く読んでいるわけでもないが、岡麓先生のお作にはかねがね敬服している。誠に滋味の豊かな歌で、くり返して味わうほど味が出てくるように思う。中でも最も敬服する点は、先生が、目立って巧みな言い回しとか、人を・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・ 中でも圧巻だと思ったのは、雪の景色であった。朝、戸をあけて見ると、ふわふわとした雪が一、二寸積もって、全山をおおうている。数多い松の樹は、ちょうど土佐派の絵にあるように、一々の枝の上に雪を載せ、雪の下から緑をのぞかせる。楓の葉のない枝・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・ 顔面は、眼、鼻、口、頬、顎、眉、額、耳など、一通り道具がそろっているが、中でも眼、鼻、口、特に眼が非常に重大な意味を担っている。原始的な造形において眼がそういう役目を持っていることは、フロベニウスに言わせると、南フランスの洞窟の動物画・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫