・・・道中気をつけて、あちらについたら、この赤いふろしきを持って改札口を出ると、叔父さんが、迎えに出ていてくださるから、お母さんの、日ごろいったことをよく守って、偉い人になっておくれ。こちらのことは、けっして、心配しなくていいのですから。」と、お・・・ 小川未明 「真吉とお母さん」
・・・ 「なアに、あれは何でもございませんよ、中気に決まっていますよ。岡釣をしていて、変な処にしゃがみ込んで釣っていて、でかい魚を引かけた途端に中気が出る、転げ込んでしまえばそれまででしょうネ。だから中気の出そうな人には平場でない処の岡釣はい・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・内の人は皆ねえさんのほうへ手伝いに行っているので、ただ中気で手足のきかぬ祖父さんと雇いばあさんがいるばかり、いつもはにぎやかな家もひっそりして、床の間の金太郎や鐘馗もさびしげに見えた。十六むさし、将棋の駒の当てっこなどしてみたが気が乗らぬ。・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
・・・一日中気違いみたいに働いて、またここで……」 ドミトリーは、いきなりとってつけもなく云った。「お前、体を洗わなかったんか? 変に匂うぜ……」 一言が、思い掛けない結果になった。グラフィーラは、刺されたように床から跳び上った。・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・が切れたら、たががゆるんでお目出たくなって夜は早く眠がるし、少し動くとくたびれるし、気はのんびりしたし、つまり実力に戻って、うち中気嫌がよくなりました。今になって白状に及んだところをみると、みんな相当私のウワバミ元気にはヘコたれていたらしい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫