・・・ 頂に固く凍った雪の面は、太陽にまともから照らされて、眩ゆい銀色に輝きわたり、ややうすれた燻し銀の中腹から深い紺碧の山麓へとその余光を漂わせている。 遠目には見得ようもない地の襞、灌木の茂みに従って、同じ紺碧の色も、或るところはやや・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・土用の末ごろにはもう東山の中腹の落葉樹の塊りが、心持ち色調を変えてくる。ほんの少しではあるが、緑の色が薄くなるのである。ここで動きがまた始まる。八月から九月の中ごろ、秋の彼岸のころへかけては、非常に徐々としてではあるが、だんだん色が明るくな・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・ただ一つ覚えているのは、市電で本牧へ行く途中、トンネルをぬけてしばらく行ったあたりで、高台の中腹にきれいな紅葉に取り巻かれた住宅が点在するのをながめて、漱石が「ああ、ああいうところに住んでみたいな」と言ったことである。 三渓園の原邸では・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫