・・・薄穢く丸っこいところから、細々したことに好奇心を抱くところ、慾張りそうなところ、睦まじく互いにそっくり似合っている。 始めての経験である間借りの生活に興味を覚えつつ、陽子は部屋を居心地よく調えた。南向の硝子窓に向って机、椅子、右手の襖際・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ それでも何の気なしに中に入るとうす暗い中に婆さんと向いあって思い掛けず娘が丸っこい指先で何かして居た。 仙二は二足ばかり後じさりした。 帰ろう! 稲妻の様にそう思うと、お婆さんは眼鏡をふきながら、 仙ちゃんかえ、お入・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
・・・ 自分の肉つきの好い丸っこい肩に両手を互え違えにして体を左右にゆりながら千世子は云ったりした。 女中の持って来た湯気の立つお茶なんか見向きもしないで三人はいつもより沢山しゃべった。 いつも無口な肇は、「私は今日どうしたんだか・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ 丸っこい体の伸子さえ小さい女になって外套のなかからあらわれた。そして、ザールをぐるぐる歩きまわる。○急にみかんの匂いがする 平土間の席、○レーニングラードのN 濃いまつ毛が美しいかげりを与えるというより病犬のような・・・ 宮本百合子 「無題(十三)」
・・・今まで少したるんで居た心は、急にキューッとしまって頬やこめかみのところにかるいけいれんが起って――いかにも神経質らしく女はその丸っこい手をふってかたをゆすった。「斯うやってポッカリと浮いた様な様子をして居られなくなっちゃった」 なげ・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫