・・・ 突飛なるは婦人乗馬講習所が出来て、若い女の入門者がかなりに輻湊した。瀟洒な洋装で肥馬に横乗りするものを其処ら中で見掛けた。更に突飛なのは、六十のお婆さんまでが牛に牽かれて善光寺詣りで娘と一緒にダンスの稽古に出掛け、お爨どんまでが夜業の・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・彼は、肩から銃をおろし、剣を取り、羊皮の帽子も、袖に星のついた上衣も乗馬靴もすっかりぬぎ捨ててしまった。ユーブカをつけた女は、次の室から、爺さんの百姓服を持ってきた。 ウォルコフは、その百姓服に着換え、自分が馬上で纏っていた軍服や、銃を・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ こんな話を偶然ある軍人にしたら、それはおもしろいことであると言ってその時話して聞かせたところによると、乗馬のけいこをするときに、手綱をかいくる手首の自由な屈撓性を養うために、手首をぐるぐる回転させるだけの動作を繰り返しやらされるそうで・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・猿が馬に乗っているにしてもその姿勢なり態度なりが、乗馬者のある特異な、しかし言葉では云い表わせない点を巧みに表わす事によって、漫画としての価値がきまるように思う。 以上のようなものは、私の考えている漫画の中で最も純粋なものである。そうし・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・その外の娯楽は乗馬、クリケット、フートボール、クロケー、射的などであった。その頃彼は休暇の度に近親の年上の誰かに淡い恋をしたが、次の休暇には前の恋人はすっかり忘れて、また別の初恋をするのであった。またある時は若い婦人に扮装して午餐会に現われ・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・平民の乗馬を禁ずべきや。次三男の自主独立をとどむべきや。 これを要するに、開進の今日に到着して、かえりみて封建世禄の古制に復せんとするは、喬木より幽谷に移るものにして、何等の力を用うるも、とうてい行わるべからざることと断定せざるをえず。・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 避暑の方法はやはり日本と同じで海か山へ行くのですが、しかし海へ行くとしても只ゆくばかりでなく、いろいろな戸外ゲームたとえば射的や乗馬などを全く何もかも忘れて愉快に無邪気に数日乃至数週間を過ごします、それに近頃では天幕生活が非常によろこ・・・ 宮本百合子 「女学生だけの天幕生活」
・・・家庭の娘たちがみなそうであったように立派な家庭教師についてフランス語、ラテン語などの語学を勉強したり、音楽、舞踊、絵画、手芸などをはじめ、若い貴婦人として社交界に出たとき、狩猟の折にこまらないようにと乗馬などまで、規則正しく仕込まれていたに・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ うれしくてたまらないと云った様な様子をしてローズの姿が戸口から消えてから十分立つとかるい色のいい形の乗馬服を着たローズの姿がまた戸口から出ました。 五分たってから真白な馬は二匹頭をそろえてみどりの森の間をくぐって燈の光の多い町に急・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・山高帽と黒い乗馬服の長い裾との間に現代英国女性の容貌がはっきりはまっている。数騎の男も混ってだくを打たせたり馬上からかがんで柵越しに散歩道の知人と握手したり自由にかつ調和を保って動いている。日曜の教会礼拝時間後から午餐までハイド・パアクのこ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫