・・・米と株券と商品の相場は、刻々に乱高下している。警察・裁判所・監獄は、多忙をきわめている。今日の社会においては、もし疾病なく、傷害なく、真に自然の死をとげうる人があるとすれば、それは、希代の偶然・僥倖といわねばならぬ。 実際、いかに絶大の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・んことを望むのである、が、少くとも今日の社会、東洋第一の花の都には、地上にも空中にも恐るべき病菌が充満して居る、汽車・電車は、毎日のように衝突したり人を轢いたりして居る、米と株券と商品の相場は、刻々に乱高下して居る、警察・裁判所・監獄は多忙・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 武田の滅びた天正十年ほど、徳川家の運命の秤が乱高下した年はあるまい。明智光秀が不意に起って信長を討ち取る。羽柴秀吉が毛利家と和睦して弔合戦に取って返す。旅中の家康は茶屋四郎次郎の金と本多平八郎の鑓との力をかりて、わずかに免れて岡崎へ帰・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫