・・・それは、彼等にとってあまり不自然な事柄にきこえるからです。 それであるからといって、この頃の子供達に、著るしく詩的空想が欠乏したという理由にはならないのであります。なぜなれば、もし彼等に月の世界がどういうところだかということを話したら、・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・ということを決める以外それ自身のなかにはなんら解決の手段も含んでいない事柄なのであるが、たとえ吉田は漠然とそれを感じることができても、身体も心も抜き差しのならない自分の状態であってみればなおのことその迷妄を捨て切ってしまうこともできず、その・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・衣食のために色々の業に従がい、種々の人間、種々の事柄に出会い、雨にも打たれ風にも揉れ、往時を想うて泣き今に当って苦しみ、そして五年の歳月は澱みながらも絶ず流れて遂にこの今の泡の塊のような軽石のような人間を作り上たのである。 三年前までは・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・といってるように、問いの中にすでにその事柄の本質が横たわっているのである。問いなくして倫理学の研究に着手することは無意味である。また問いこそその討究を真剣ならしめる推進機である。いかに問うかということ、その問い方の大いさ、深さ、強さ、細かさ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 読書とは単なる知性の領域にある事柄ではない。それは情意と、実践との世界に関連しているのである。特に東洋においては、それはむしろ実践のためにあるものなのであった。 しかしながら前にも述べた如く、良書とは自分の抱く生の問いにこたえ得る・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・明日は、明日はと待ち暮らしてみても、いつまで待ってもそんな明日がやって来そうもない、眼前に見る事柄から起こって来る多くの失望と幻滅の感じとは、いつでも私の心を子供に向けさせた。 そうは言っても、私が自分のすぐそばにいるものの友だちになれ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・そうして貴下の御心配下さる事柄に対して、小生としても既に訂正しつつあるということを御報告したいのです。それは前陳の、予感があったという、それだけでも、うなずいて頂けると思います。何はしかれ、御手紙をうれしく拝見したことをもう一度申し上げて万・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 一日中に起った事柄の、どれを省略すべきか、どれを記載すべきか、その取捨の限度が、わからないのである。勢い、なんでもかでも、全部を書くことになって、一日かいて、もうへとへとになるのである。正確に書きたいと思うから、なるべくは眠りに落ちる・・・ 太宰治 「作家の像」
・・・いずれも科学的には訳の分らないものであるが、ただ世人の生活に直接なものであるだけに、事柄が誰にも分りやすいように思われる。 これに反してアインシュタインの取扱った対象は抽象された時と空間であって、使った道具は数学である。すべてが論理的に・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・先ず一番の基礎的な事柄は教場でやらないで戸外で授ける方がいい。例えばある牧場の面積を測る事、他所のと比較する事などを示す。寺塔を指してその高さ、その影の長さ、太陽の高度に注意を促す。こうすれば、言葉と白墨の線とによって、大きさや角度や三角函・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫