・・・の発展の段階があるにしても、唯一つ、最も基本的で共通な点は、民主社会においては、婦人が、全く人口の半分を占める男子の伴侶であって、婦人にかかわるあらゆる問題の起源と解決とは常に、男子女子をひっくるめた人民全体の生活課題として、理解され、扱わ・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
文学の歴史をみわたすと、本当に新しい意味で婦人が文学の活動に誘い出されて来たのは、いつも、人民の権利がいくらか多くなって、すべての人が自分の考えや感じを表現してよいのだ、という確信を得た時代であった。 明治はじめの自由・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・ 一九三〇年に入ってから、ヒトラーのナチスは総選挙で多数党となり、ドイツの全人民が知識階級をもこめて、その野蛮な軛の下に苦しむ第一歩がふみ出された。どうして、第一次ヨーロッパ大戦後のドイツに、ヒトラーの運命が、そんな人気を博したのであっ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・しかしここで注目すべきことは、日本では、明治開化期が、二十二年憲法発布とともに、却って逆転させられて、人民の自由の封鎖がはっきりその頃からはじまった点である。それまでは闊達であった婦人の政治的活躍も様々の法令や規則で禁止されるようになったし・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
朝の太陽が、一刻一刻と地平線の上にさしのぼって来るように、日本には人民が自身の幸福建設のために支配者として生活し得る可能がましています。 これまで永い間、重い歴史の蓋をかぶせられて、日本の老いも若きも、何と暗い無智におかれ、理・・・ 宮本百合子 「明日を創る」
・・・小さい村で、人民は大抵避難してしまって、明家の沢山出来ている所なのだね。小川君は隣の家も明家だと思っていたところが、ある晩便所に行って用を足している時、その明家の中で何か物音がすると云うのだ。」通訳あがりは平山と云う男である。 小川は迷・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・デクレスはナポレオンの征戦に次ぐ征戦のため、フランス国の財政の欠乏の人口の減少と、人民の怨嗟と、戦いに対する国民の飽満とを指摘してナポレオンに詰め寄った。だが、ナポレオンはヨーロッパの平和克復の使命を楯にとって応じなかった。デクレスは最後に・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・めたような色の光線にも、また翌日の朝焼けまで微かに光り止まない、空想的な、不思議に優しい調子の、薄色の夕日の景色にも、また暴風の来そうな、薄黒い空の下で、銀鼠色に光っている海にも、また海岸に棲んでいる人民の異様な目にも、どの中にも一種の秘密・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・それのもたらした新事実をあげれば、まず自然科学の進歩、社会主義の勃興、一般人民の物質的享楽への権利の主張、徹底的な虚無主義の出現――芸術上においては様式の単純化、日常生活の外形的な細部の描写の成功などであるが、そこに著しい進歩があったとは言・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・その代わり、英、独、仏、露、敵味方各国の人民はお互いに暖かい情をもって手を握り合い、お互いの民族の優れた性質や高貴な文化を賞讃し合う。そうしてこの恐ろしい悲惨な戦争を起こした少数の怪物たちを、共通の敵として憎むことに同意する。 ここでば・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫