・・・しかし、其の間に介在する灰色の階級や、主義者は、却って相互の闘争的精神を鈍らせるばかりでなく、真理に向っての前進を阻止する妨害をなすことを知らなければならない。一般に知識階級が、ある時期に際して、憎視され、甚だしき反感を買うのは、これがため・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・源氏物語と私たちとの間に介在する幾百年の雨風を思い、そうしてその霜や苔に被われた源氏物語と、二十世紀の私たちとの共鳴を発見して、ありがたくなって来るのであろう。いまどき源氏物語を書いたところで、誰もほめない。 日本の古典から盗んだこ・・・ 太宰治 「古典竜頭蛇尾」
・・・の系列が介在している場合はなおさら科学的方策の上下疎通が困難になる道理である。 具体的に言うことができないのは遺憾であるが、自分の知っている多数の実例において、科学者の目から見れば実に話にもならぬほど明白な事がらが最高級な為政者にどうし・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・というだけの一見きわめて簡単なる内容が実は非常に多様な体験を接合するための一つの中間介在物であり、言わば扇のかなめのようなものになっている。すなわちこれはその日偶然通りかかったある店先で見た他人の他の事に関する植物学の著書につながると同時に・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・を横ぎり鉄道馬車の通う大通りへ曲らんとするところだと思いたまえ、余の車は両君の間に介在して操縦すでに自由ならず、ただ前へ出られるばかりと思いたまえ、しかるに出られべき一方口が突然塞ったと思いたまえ、すなわち横ぎりにかかる塗炭に右の方より不都・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・欧州にて和蘭、白耳義のごとき小国が、仏独の間に介在して小政府を維持するよりも、大国に合併するこそ安楽なるべけれども、なおその独立を張て動かざるは小国の瘠我慢にして、我慢能く国の栄誉を保つものというべし。 我封建の時代、百万石の大藩に隣し・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・けれども、その中間の重心に、自意識という介在物があって、人間の外部と内部とを引裂いているかの如き働きをなしつつ、恰も人間の活動をしてそれが全く偶然的に、突発的に起って来るかの如き観を呈せしめている近代人というものは、まことに通俗小説内におけ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・というどこやら謙遜めいた題から私は作者がこの十数年間に人間として身にとりあつめて来たものの内容と、現在作家として感じようとする文学的雰囲気とでもいうようなものとの間に、何か不安定な間隔が介在していることを感じた。私はこの作者が、都会人らしく・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
出典:青空文庫