・・・それほど大仕掛の手数を厭う位なら、ついでに文芸院を建てる手数をも厭った方が経済であると考える。国家を代表するかの観を装う文芸委員なるものは、その性質上直接社会に向って、以上のような大勢力を振舞かねる団体だからである。 もし文芸院がより多・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・とごとくこれを政府の政に托し、政府はこの法をかくの如くしてこの事をかくの如くなすべしといい、この事の行われざることあらば、この法をもってこれを禁ずべしといい、これを禁じこれを勧め、一切万事、政府の道具仕掛けをもって天下の事を料理すべきものと・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・焼き場というても一寸した石が立っておる位で別に何の仕掛けもない。唯薪が山のように積んである上へ棺を据えると穏坊は四方から其薪へ火をつける。勿論夜の事であるから、炎々と燃え上った火の光りが真黒な杉の半面を照して空には星が一つ二つ輝いでおる。其・・・ 正岡子規 「死後」
・・・それに赤や青の灯や池にはかきつばたの形した電燈の仕掛けものそれに港の船の灯や電車の火花じつにうつくしかった。けれどもぼくは昨夜からよく寝ないのでつかれた。書かないでおいたってあんなうつくしい景色は忘れない。それからひるは過燐酸の工場と五稜郭・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・あなたは何かうまい仕掛けをしておきましたか。」「いいえ、なんにもしておきません。しかし、今度天気が長くつづいたら、私は少し畑の方へ出てみようと思うんです。」「畑には何かいいことがありますか。」「秋ですからとにかく何かこぼれている・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・ こないだっから仕掛けて居たものが「つまずい」て仕舞ったのでその事を思うと眉が一人手に寄って気がイライラして来る。 出掛ける気にもならず、仕たい事は手につかず、気は揉める。「どうしようかなあ。 馬鹿らしい独言を云って・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・改正憲法のお祭りは五月三日に日比谷で大仕掛に行われた。けれども、あの日台所で燻い竈の前にかがみ、インフレーションの苦しい家事をやりくって、石鹸のない洗濯物をしていた主婦のためには、新憲法のその精神がはっきり具体化されたような変化はなかった。・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・この綱は二本の繊維素で出来ている所謂る綱であり、この綱は捻じれたままの方向に捻じればますます強くなるだけだが、一たび逆に捻じれば直ちに断ち切れ、鵜の首を自由にしてその生命を救う仕掛けを持った綱であった。 私は物の運動というものの理想を鵜・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・『イリアス』が古代世界を代表し、『神曲』が古代と中世とを包括し、『ファウスト』が古代中世近代の全体を一つの世界にまとめ上げた、というように、大仕掛けな、時代全体のみならず、人類の運命全体を表現しようとする芸術品は、我々の時代においても、現戦・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・漱石の作品にある『硝子戸の中』はそういう仕掛けのものであった。そこで廊下から西洋風の戸口を通って書斎へはいると、そこは板の間で、もとは西洋風の家具が置いてあったのかもしれぬが、漱石は椅子とか卓子とか書き物机とかのような西洋家具を置かず、中央・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫