・・・小作料は三年ごとに書換えの一反歩二円二十銭である事、滞納には年二割五分の利子を付する事、村税は小作に割宛てる事、仁右衛門の小屋は前の小作から十五円で買ってあるのだから来年中に償還すべき事、作跡は馬耕して置くべき事、亜麻は貸付地積の五分の一以・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・然しそれは歴代の為政者の中央政府に阿附するような施設によって全く踏みにじられてしまった。而して現在の北海道は、その土地が持つ自然の特色を段々こそぎ取られて、内地の在来の形式と選む所のない生活の維持者たるに終ろうとしつゝあるようだ。あの特異な・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・ その短篇集の著者が、万世一系かどうか、それは彼の言論の自由のしからしむるところであろうから、敢えて不問に附するとしても、それに較べて私が乞食だという彼の断案には承知できないものがあった。としの若いやつと、あまり馴れ親しむと、えてしてこ・・・ 太宰治 「母」
・・・津田君が今日その作品に附する態度はやはりこれと同じようなものであるらしい。出来るだけ伝統的の型を離れるには一度あらゆるものを破壊し投棄して原始的の草昧時代に帰り、原始人の眼をもって自然を見る事が必要である。こういう主張は実は単なる言詞として・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・それが事実は特に人造石とゴムとの組み合わせによって特別な現象が起こるのであるから、これは必ずしも既知の単純なリュブリケーションの問題として不問に付することはできないように見える。これも一つのまじめな研究題目とすればなりうるであろうし、これを・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・我輩は常に世の道徳論者の言を聞き、論者が特にこの大切なる一点をば軽々看過してあたかも不問に附する者多きを見て窃かに怪しむのみか、その無識を冷笑するほどの次第なれば、大いに婦人の地位を推してこれを高処に進め、以て男子に拮抗せしめんとするの考案・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・その大を見て驚くなかれ、その小を見て等閑に附するなかれ。大小の物、皆偶然に非ざるなり。人にして物理に暗く、ただ文明の物を用いてその物の性質を知らざるは、かの馬が飼料を喰うて、その品の性質を知らず、ただその口に旨きものはこれを取りて、然らざる・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・何故かと云うに、ジュコーフスキー流にやるには、自分に充分の筆力があって、よしや原詩を崩しても、その詩想に新詩形を附することが出来なくてはならぬのだが、自分には、この筆力が覚束ないと思われたからだ。従来やり来った翻訳法で見ると、よし成功はしな・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・今回の罷業に関し貴下を懲戒解傭の処分に附するの已むなきを得ざるに至りし事は遺憾至極に存じ候。然れども貴下の行動は恐らく本心より出でたるものにあらざるべしと思慮致候に付来る七日迄に復職願い出でられたる場合においては、当局々員として適当・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
出典:青空文庫