・・・二、三人目に僕の所へ来たおじいさんだったが、聞いてみると、なんでも小松川のなんとか病院の会計の叔父の妹の娘が、そのおじいさんの姉の倅の嫁の里の分家の次男にかたづいていて、小松川の水が出たから、そのおじいさんの姉の倅の嫁の里の分家の次男の里で・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・それはなにも監督が不正なことをしていたからではなく会計上の知識と経験との不足から来ているのに相違ないのだが、父はそこに後ろ暗いものを見つけでもしたようにびしびしとやり込めた。 彼にはそれがよく知れていた。けれども彼は濫りなさし出口はしな・・・ 有島武郎 「親子」
・・・「僕は社の会計から煙草銭ぐらい融通する事はあるが、個人としての沼南には一銭だって借りた覚えがない。ところがこの頃退引ならない事情があって沼南に相談すると、君の事情には同情するが金があればいいがネ、と袂から蟇口を出して逆さに振って見せて、「な・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・いたような、金銭に関するあの人の悪い癖を聞いたので、直ぐあの人に以後絶対に他人には金を貸しませんと誓わせ、なお、毎日二回ずつあの人の財布のなかに入れてやるほかは、余分な金を持たせず、月給日には私が社の会計へ行って貰った。毎日財布を調べて支出・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・第一公式なんかの滑稽はかまわないとしても、金の方でボロが出やしないかとビクビクだったが、それもどうやら間に合ったんだし、大事な人たちは来てくれたし、まあけっこうな方でしょう」会計や事務いっさいを任されてきた弟の窶れた顔にも、初めて安心の色が・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・そして会計もすんで、いよいよ皆なも出かけようという時になって、意外なことになった。……それは、今朝になって突然K社の人が佐々木を訪ねてきて、まだ今夜の会場が交渉してないから、彼に行って取極めてきてくれと言って、来たのだそうだ。「……幸い・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・いまさらわしが隠居仕事で候のと言って、腰弁当で会社にせよ役所にせよ病院の会計にせよ、五円十円とかせいでみてどうする、わしは長年のお務めを終えて、やれやれ御苦労であったと恩給をいただく身分になったのだ。治まる聖代のありがたさに、これぞというし・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・付添として来た婆やは会計を預っていたので、おげんが毎日いくらかずつの小遣いを婆やにねだりねだりした。「一円でいい」 とまたおげんが手を出して言った。 婆やは小山の家に出入の者でひどくおげんの気に入っていたが、金銭上のことになると・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・こうした報告が社の会計から、すでに私の手もとへ届くようになった。 私も実は、次郎と三郎とに等分に金を分けることには、すでに腹をきめていた。ただ太郎と末子との分け方をどうしたものか。娘のほうにはいくらか薄くしても、長男に厚くしたものか。そ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・一週間も滞在して、いちまいも書けず、宿賃が一泊五円として、もうそろそろ五十円では支払いが心細くなっていますし、きょうあたり会計をしてもらって、もし足りなかったら家へ電報を打たなければなるまい、ばかな事になったものだと、つくづく自分のだらし無・・・ 太宰治 「風の便り」
出典:青空文庫