・・・と云うのですが、これも大抵は作り事です。殊に頸が細かったの、腹が脹れていたのと云うのは、地獄変の画からでも思いついたのでしょう。つまり鬼界が島と云う所から、餓鬼の形容を使ったのです。なるほどその時の俊寛様は、髪も延びて御出でになれば、色も日・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・の裁判でもこれを西鶴に扱わせるとその不自然な作り事の化けの皮が剥がれるから愉快である。勿論これらの記事はどこまでが事実でどこからが西鶴の創作であるかは不明であるが、いずれにしてもこれらの素材の取扱い方に著者の心理分析的な傾向を認めても不都合・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・これではまるで詐欺師であるが、これはおそらく彼の敵のいいふらした作り事であろう。 ピタゴラス派の哲学というものはあるが、ピタゴラスという哲学者は実は架空の人物だとの説もあるそうで、いよいよ心細くなる次第であるが、しかしこのピタゴラスと豆・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・ アラン・ポーの短編の中に、いっしょに歩いている人の思っていることをあてる男の話があるが、あれはいかにももっともらしい作り事である。しかしまんざらのうそでもないのである。 二 睡蓮を作っている友人の話である。・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・にしろ気持の悪い作り事ではなかった。 下らないわかりきった事に「いい加減」を云われると千世子は「かんしゃく」を起したけれ共美くしい幾分か芸術的な「うそ」は自分もその気になって聞く事がすきだ。 自分の前に居るまだ二十一寸すぎの青年とそ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・という考えはヨーロッパの作り事である。これがまた逆にヨーロッパに影響して、二十世紀の初めまで、相当に教養の高い人すらも、アフリカの土人は半獣的な野蛮人である、奴隷種族である、呪物崇拝のほか何も産出することのできなかった未開民族である、などと・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫