・・・彼自身個人としては公生活の組織に関してかなりな興味をもっているが、学校で政治的素養を作る事は面白くないと云っている。その理由は第一こういう教育は官辺の影響のために本質的に出来にくいし、また頭の成熟しないものが政治上の事にたずさわるのは一体早・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ビイル一杯が長くて十五分間、その店のお客たる資格を作るものとすれば、一時間に対して飲めない口にもなお四杯の満を引かねばならない。然らずば何となく気が急いて、出て行けがしにされるような僻みが起って、どうしても長く腰を落ち付けている事が出来ない・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・其家は代々の稼ぎ手で家も屋敷も自分のもので田畑も自分で作るだけはあった。手堅にすれば楽な身上であった。夫婦は老いて子がなかった。彼はそこへ行ってから間もなく娵をとった。其家の財産は太十の縁談を容易に成就させたのであった。二 ・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・要するに幾何学のように定義があってその定義から物を拵え出したのでなくって、物があってその物を説明するために定義を作るとなると勢いその物の変化を見越してその意味を含ましたものでなければいわゆる杓子定規とかでいっこう気の利かない定義になってしま・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・作られて作る所に、我々は自覚するのである。故に我々の自己は歴史的身体的である。然らざれば、それは考えられた自己たるに過ぎない。かかる自己に執着するのが迷である。絶対否定即肯定ということは、判断的自己の立場からいい得ることではない。それは作り・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・関するを得ずして日一日を送りしことなるが、二、三十年以来、下士の内職なるもの漸く繁盛を致し、最前はただ杉檜の指物膳箱などを製し、元結の紙糸を捻る等に過ぎざりしもの、次第にその仕事の種類を増し、下駄傘を作る者あり、提灯を張る者あり、或は白木の・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・後世の歌人といえども、誠を詠め、ありのままを写せ、と空論はすれどその作るところのかえっていつわりのたくみを脱するあたわざるは誠、ありのまま、の意義を誤解せるによる。西行のごときは幾多の新材料を容れたるところあるいはこの意義を解する者に似たれ・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・そのかわりおまえは、おれの死んだ息子の読んだ本をこれから一生けん命勉強して、いままでおれを山師だといってわらったやつらを、あっと言わせるような立派なオリザを作るくふうをしてくれ。」 そして、いろいろな本を一山ブドリに渡しました。ブドリは・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・もし、この広大な稲田全体が、いつわりない農民の生産として、それを作る農民の生活にもかえってゆくものならば、どうして、秋田、山形の農家はこんなに小さい屋根屋根の下にかがまっていて、しかも地主らしい堂々たる家構が見当らないのだろう。一坪でも、そ・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・作りたいとき作る。まあ、食いたいとき食うようなものだろう。」「本能かね。」「本能じゃあない。」「なぜ。」「意識して遣っている。」「ふん」と云って、小川は変な顔をして、なんと思ったか、それきり電車を降りるまで黙っていた。・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫