緒言 映画はその制作使用の目的によっていろいろに分類される。教育映画、宣伝映画、ニュース映画などの名称があり、またこれらのおのおのの中でもいろいろな細かな分類ができる。しかしこれらの特殊な目的で作られた映画・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・『今戸心中』をよんでも娼妓が電話を使用するところが見えない。東京の町々はその場処場処によって、各固有の面目を失わずにいた。例えば永代橋辺と両国辺とは、土地の商業をはじめ万事が同じではなかったように、吉原の遊里もまたどうやらこうやら伝来の風習・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・草双紙の表紙や見返しの意匠なぞには、便所の戸と掛手拭と手水鉢とが、如何に多く使用されているか分らない。かくの如く都会における家庭の幽雅なる方面、町中の住いの詩的情趣を、専ら便所とその周囲の情景に仰いだのは実際日本ばかりであろう。西洋の家庭に・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・カーライルの歿後は有志家の発起で彼の生前使用したる器物調度図書典籍を蒐めてこれを各室に按排し好事のものにはいつでも縦覧せしむる便宜さえ謀られた。 文学者でチェルシーに縁故のあるものを挙げると昔しはトマス・モア、下ってスモレット、なお下っ・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・るならば、吾々が四五十年間始めてぶつかった、また今でも接触を避ける訳に行かないかの西洋の開化というものは我々よりも数十倍労力節約の機関を有する開化で、また我々よりも数十倍娯楽道楽の方面に積極的に活力を使用し得る方法を具備した開化である。粗末・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・家事を司どる婦人には自から財産使用の権利あり、一品一物も随意にす可らずとは、取りも直さず内君は家の下婢なりと言うに等し。都て我輩の反対する所なり。一 女は我親の家をば続ず、舅姑の跡を継ぐ故に、我親よりもを大切に思ひ孝行を為べし。・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・大学は、英語を使用し、英語で使用される新しい大小の官僚、事務官を養成すればことたりるところという標準で組みかえられつつある。それに抵抗して日本の理性と学問、文化の自立を主張する動きは、全日本の規模で全学問の分野を包含した。生きる自由、学び、・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・ひろく知られているところのギリシアの社会は、人類の若々しい文化をはじめて花咲かせ、古典文化のつきない源泉となったが、このギリシアの繁栄と自由とは奴隷使用の上に咲きほこっていた。人口比率は一人の自由人に対して五人ぐらいの奴隷があって、その奴隷・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・それは、文学が絶対に文字を使用しなければならぬと云う、此の犯すべからざる宿命によって、「文字の表現」の一語で良い。これは、いかなるものと雖も認めるであろう。 しかしながら、その次に何物よりも、われわれの最もより多く共通した問題となる・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・日本絵の具といえども胡粉を多量に使用することによって厚みや執着力を印象することは不可能であるまい。写実も思うままにやれるだろう。古い仏画の内にはこの事を確信せしむる二三の例がある。これらの仏画を眼中に置いて現在の日本画を見れば、その弱さと薄・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫