・・・ 或物質主義者の信条「わたしは神を信じていない。しかし神経を信じている。」 阿呆 阿呆はいつも彼以外の人人を悉く阿呆と考えている。 処世的才能 何と言っても「憎悪する」ことは処世的・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・僕はこのヒサイダさんに社会主義の信条を教えてもらった。それは僕の血肉には幸か不幸か滲み入らなかった。が、日露戦争中の非戦論者に悪意を持たなかったのは確かにヒサイダさんの影響だった。 ヒサイダさんは五、六年前に突然僕を訪問した。僕が彼と大・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・ 二葉亭の頭は根が治国平天下の治者思想で叩き上げられ、一度は軍人をも志願した位だから、ヒューマニチーの福音を説きつつもなお権力の信仰を把持して、“Might is right”の信条を忘れなかった。貴族や富豪に虐げられる下層階級者に同情・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ もし、人々がすべてかくのごとく、自から耕し、自から織り、それによって生活すべく信条づけられていたなら、そして、虚栄から、虚飾から、また不正の欲望から生ずる一切のものを排除することができたなら、彼等は、搾取されることもなく、また、搾取す・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・もし人間が救われないものなれば、誰か、人間に対して、理想と信条を有し得よう。誰か、人間の生活について、希望を持ち得よう。 こゝに至って、私は、現在の社会について考え至らなければならない。その禍のよって来る原因を社会に探ねなければならない・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・ ――もともと出鱈目と駄法螺をもって、信条としている彼の言ゆえ、信ずるに足りないが、その言うところによれば、彼の祖父は代々鎗一筋の家柄で、備前岡山の城主水野侯に仕えていた。 彼の五代の祖、川那子満右衛門の代にこんなことがあった……。・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 自分はいかなることにも驚かぬが、つねに人を驚かすことが、この豹吉の信条なのだ。 きっとあたりを見廻して、そして二、三度あくびをすると豹吉はやがてどこをどう抜けたか、固く扉を閉した筈の会館の中から、するりと抜け出すことに成功した。・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・無辜の良民であって、単に教会の信条に服さないとの嫌疑のために焚殺されたものは、幾十万を算するではないか。フランス革命の恐怖時代を見よ。政治上の党派をことにするという故をもって斬罪となった者は、日に幾千人にものぼっているではないか。日本幕府の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 西班牙に宗教裁判の設けられたる当時を見よ、無辜の良民にして単に教会の信条に服せずとの嫌疑の為めに焚殺されたる幾十万を算するではない歟。仏国革命の恐怖時代を見よ、政治上の党派を異にすというの故を以て斬罪となれる者、日に幾千人に上れるでは・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・と客も私の煮え切らなさに腹が立って来た様子で語調を改め、「小説を書くに当ってどんな信条を持っているのですか。たとえば、ヒュウマニティだとか、愛だとか、社会正義だとか、美だとか、そんなもの、文壇に出てから、現在まで、またこれからも持ちつづけて・・・ 太宰治 「鴎」
出典:青空文庫