・・・彼女の言うことを信用したらあきまへんぜ。あの女子は嘘つきですよってな。わてはだまされた、わては不幸な女子や、とこないひとに言いふらすのが彼女の癖でんねん。それが彼女の手エでんねん。そない言うてからに、うまいこと相手の同情ひきよりまんねんぜ。・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・東京の鑑定家なんていうものの言うことも迂濶に信用はできまいからね。田舎者の物だというんで変なけちをつけて、安く捲き上げるつもりかなんかしれやしないからね。……真物かもしれないぜ」「いやどうもこの崋山はだめらしい。僕も毎日こうやってちょい・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・父兄からは十二分の信用と尊敬とを得て何か込み入ったことはみんな君のところへ相談に来て君の判断を仰ぐ。僕は今の教育家にこういう例はあまりなかろうと思う。そこで僕は思った、僕に天才があろうがなかろうが、成功しようがしなかろうがそんな事は今顧みる・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・ 兄の云うことは何事でも信用する藤二だった。「その方がえいんじゃ、勝負をしてみい。それに勝つ独楽は誰れっちゃ持っとりゃせんのじゃ。」 そこで独楽の方は古いので納得した。しかし、母と二人で緒を買いに行くと、藤二は、店頭の木箱の中に・・・ 黒島伝治 「二銭銅貨」
・・・「そんなにこちらの言葉を御信用がないならば、二つの鼎を列べて御覧になったらば如何です」と一方はいったが、それでも一方は信疑相半して、「当方はどうしても頂戴して置きます」と意地張った。そこで唐君兪は遂に真鼎を出して、贋鼎に比べて視せた。双方と・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ぬの議が合わぬのと江戸の伯母御を京で尋ねたでもあるまいものが、あわぬ詮索に日を消すより極楽は瞼の合うた一時とその能とするところは呑むなり酔うなり眠るなり自堕落は馴れるに早くいつまでも血気熾んとわれから信用を剥いで除けたままの皮どうなるものか・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・地方の人の信用は旦那の身に集まるばかりであった。交際も広く、金廻りもよく、おまけに人並すぐれて唄う声のすずしい旦那は次第に茶屋酒を飲み慣れて、土地の芸者と関係するようになった。旦那が自分の知らない子の父となったと聞いた時は、おげんは復たかと・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・お前さんだってそう底抜けに信用するわけにはいかないわ。兎に角お前さんがそんなことをしたにしても、あの人が構わなかっただけはたしかだわ。どうもそうらしいわ。それだからなんとなくお前さんはわたしに対して不平らしい様子をするのだろうと思うわ。前か・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・今日、両親と別れるのが辛くて歎いている心は、やがて、自分の為になる財産の一つとなるだろうと考えたので、彼は、それをも、スバーに対する信用の一つに加えました。牡蠣についた真珠のように、娘の涙は彼女の価値を高めるばかりでした。彼は、スバーが自分・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・汽車賃や何かで、姉から貰った五十円も、そろそろ減って居りますし、友人達には勿論持合せのある筈は無し、私がそれを承知で、おでんやからそのまま引張り出して来たのだし、そうして友人達は私を十分に信用している様子なのだから、いきおい私も自信ある態度・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
出典:青空文庫