・・・「どうもこいつの方が信用が置けそうだ。この卓や腰掛が似ているように、ここに来て据わる先生達が似ているなら、おれは襟に再会することは断じて無かろう。」 こう思って、あたりを見廻わして、時分を見計らって、手早く例の包みを極右党の卓の中にしま・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・これについては世界中の信用のある学者の最大多数が裏書をしている。仕事が科学上の事であるだけにその成果は極めて鮮明であり、従ってそれを仕遂げた人の科学者としてのえらさもまたそれだけはっきりしている。 レニンの仕事は科学でないだけに、その人・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・御主人にも信用がありますけれど、お祖母さんという人に、大変に気に入られているんです。嫁さんも御主人の親類筋の人で、四国でいい船持ちだということです。庄ちゃんなんか行って、私をむずかしい女のように言っていたんですけれど、逢ってみればそんなじゃ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・尤もそれを信用する争議団員は一人もありはしなかったが……しかし、モウ今日では、利平達は、社長の唯一の手足であり、杖であった。会社の浮沈を我身の浮沈と考えていた。彼等は争議団員中の軟派分子を知っていた。またいろいろの団員中の弱点も知っていた。・・・ 徳永直 「眼」
・・・それでも点数がよかったので、人は存外信用してくれた。自分も世間へ対しては多少得意であった。ただ自分が自分に対すると甚だ気の毒であった。そのうち愚図々々しているうちに、この己れに対する気の毒が凝結し始めて、体のいい往生となった。わるく云えば立・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・そうすると信用というものもなくなり、幸福の影が消えてしまう。たまたま苦労らしい嘆らしい事があっても、己はそれを考の力で分析してしまって、色の褪めた気の抜けた物にしてしまったのだ。ほんに思えばあの嬉しさの影をこの胸にぴったり抱き寄せるべきであ・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・そして、すべての人は案外鋭くものを考えているものだということを互に信用したいと思います。 いい考えは、むずかしい本をよんでいるときに浮ぶのではなくて、真面目にものをうけとる心さえあればいい音楽をきいていて、十分深い思慮を扶けられるもので・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・ しかし市長は疑わしそうに頭を振った、『信用のあるマランダンが手帳とこの糸と見あやまるということはわたしには信じられぬよ、アウシュコルン。』 アウシュコルンは猛り狂って、手をあげて、唾をした、ちょうど自分の真実を証明するつもりら・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・殊に大学の三百年祭の事を知らせてよこした時なんぞは、秀麿はハルナックをこの目覚ましい祭の中心人物として書いて、ウィルヘルム第二世とハルナックとの君臣の間柄は、人主が学者を信用し、学者が献身的態度を以て学術界に貢献しながら、同時に君国の用をな・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 異才の弟子の能力に高田も謙遜した表情で、誇張を避けようと努めている苦心を梶は感じ、先ずそこに信用が置かれた気持良い一日となって来た。「ときどきはそんな話もなくては困るね。もう悪いことばかりだからなア。たった一日でも良いから、頭の晴・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫