・・・不可解なる荘厳の儀式である。何の為に熱狂したのかは「改造」社主の山本氏さえ知らない。 すると偉大なる神秘主義者はスウエデンボルグだのベエメだのではない。実は我々文明の民である。同時に又我々の信念も三越の飾り窓と選ぶところはない。我々の信・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 奉行「伝授するには、いかなる儀式を行うたぞ。」 吉助「御水を頂戴致いてから、じゅりあのと申す名を賜ってござる。」 奉行「してその紅毛人は、その後いずこへ赴いたぞ。」 吉助「されば稀有な事でござる。折から荒れ狂うた浪を踏んで・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・ その年の八月一日、徳川幕府では、所謂八朔の儀式を行う日に、修理は病後初めての出仕をした。そうして、その序に、当時西丸にいた、若年寄の板倉佐渡守を訪うて、帰宅した。が、別に殿中では、何も粗そそうをしなかったらしい。宇左衛門は、始めて、愁・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ クララが知らない中に祭事は進んで、最後の儀式即ち参詣の処女に僧正手ずから月桂樹を渡して、救世主の入城を頌歌する場合になっていたのだ。そしてクララだけが祭壇に来なかったので僧正自らクララの所に花を持って来たのだった。クララが今夜出家する・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ 短い沈黙を経過する。儀式は皆済む。もう刑の執行より外は残っていない。 死である。 この刹那には、この場にありあわしただけの人が皆同じ感じに支配せられている。どうして、この黒い上衣を着て、シルクハットを被った二十人の男が、この意・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・「いわば、お儀式用の宝ものといっていいね、時ならない食卓に乗ったって、何も気味の悪いことはないよ。」「気味の悪いことはないったって、一体変ね、帰る途でも言ったけれど、行がけに先刻、宿を出ると、いきなり踊出したのは誰なんでしょう。」・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・何も儀式を見習わせようためでもなし、別に御馳走を喰わせたいと思いもせずさ。ただうらやましがらせて、情けなく思わせて、おまえが心に泣いている、その顔を見たいばっかりよ。ははは」 口気酒芬を吐きて面をも向くべからず、女は悄然として横に背けり・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・けれども、今時分、扇子は余りお儀式過ぎる。……踊の稽古の帰途なら、相応したのがあろうものを、初手から素性のおかしいのが、これで愈々不思議になった。 が、それもその筈、あとで身上を聞くと、芸人だと言う。芸人も芸人、娘手品、と云うのであった・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・かかる間に卓上の按排備わりて人々またその席につくや、童子が注ぎめぐる麦酒の泡いまだ消えざるを一斉に挙げて二郎が前途を祝しぬ。儀式はこれにて終わり倶楽部の血はこれより沸かんとす。この時いずこともなく遠雷のとどろくごとき音す、人々顔と顔見合わす・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・馬琴が用いましたその小説中の言語と、当時の実際の言語とも一つの重要な関係点でありますれば、馬琴の描きました小説中の風俗習慣や儀式作法と、当時の実際の風俗習慣や儀式作法との関係も、また重要の一カ条でございますし、馬琴の小説中にあらわれて居りま・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
出典:青空文庫