・・・文人が公民権が無くとも、代議士は愚か区会議員の選挙権が無くとも、社会的には公人と看做されないで親族の寄合いに一人前の待遇を受けなくとも文人自身からして不思議と思わなかった。寧ろ文人としては社会から無能者扱いを受けるのを当然の事として、残念と・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ 彼の公人としての生涯の望みは教員になる事であった。それでチューリヒのポリテキニクムの師範科のような部門へ入学して十七歳から二十一歳まで勉強した。卒業後彼をどこかの大学の助手にでも世話しようとする者もあったが、国籍や人種の問題が邪魔にな・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ 私達常識人からみると、これは一公人として無能力であったことを世界に証明してもらってありがたいということです。泉山蔵相がよって、醜態を演じて、さめたときはおぼえがないという、それでとおってきたこれまでの天皇制的特権者たちの共通なみにくさ・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・ 作家を公人として見て、姓名だけをよんで来た読者の習慣とそれとは感情において決して一つのものでないことは明らかである。 デパートの書籍売場などで、反物を相談するように、これがよく出ます、と云われる本を買ってゆく奥さん風のひとも多いそ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・いずれも文学的公人であるから名をあげることをも許されると信じるが、その夫婦は佐佐木茂索氏夫妻である。 何かの折佐佐木茂索氏とふさ夫人とが題材としては小さい一つの題材を二人両様に扱って書いたところ、その扱いかたの腕では、茂索氏が勝ったとか・・・ 宮本百合子 「夫婦が作家である場合」
・・・若い娘とその両親とが、公人としてそれぞれの立場から結婚の問題や婦人と職業の問題について睦じく公然と意見を話す時代になって来たのは、社会的に云っても、家族生活にとって一つの積極性であると思う。親と子とが、ひとの前ででも、しゃんと互を傷けずに各・・・ 宮本百合子 「短い感想」
出典:青空文庫