・・・寺田は夜通し撫ぜてやったが、痛みは消えず、しまいには油汗をタラタラ流して、痛い痛いと転げ廻った。再発した癌が子宮へ廻っていたのだ。しかし医者は入院する必要はないと言う。ラジウムを掛けに通うだけでいいが、しかし通うのが苦痛で堪え切れないのなら・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・来年は七十だというのにこの癖はまだ消え去らず、事に会えば忽ち再発するらしい。雀百まで躍るとかいう諺も思合されて笑うべきかぎりである。 かつて東京にいたころ、市内の細流溝渠について知るところの多かったのも、けだしこの習癖のためであろう。こ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・これ等の事情をもって考るに、今の成行きにて事変なければ格別なれども、万に一も世間に騒動を生じて、その余波近く旧藩地の隣傍に及ぶこともあらば、旧痾たちまち再発して上士と下士とその方向を異にするのみならず、針小の外因よりして棒大の内患を引起すべ・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・久しく世人の知らざるところなりしかども、今日また徳教論の再発にさいし、その贈書の草稿を左に記して、読者の参考に供す。 書翰過般、御送付相成候『倫理教科書』の草案、閲見、少々意見も有之、別紙に認候。妄評御海恕被下度、・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・ また、七月の『文学評論』の巻頭言には、「批評における図式主義の再発を防ぐ」という論文があって私の興味をひいた。 この論文では、創作方法の問題を再び「現実認識の一般方法の問題」「唯物弁証法」に「還元しきる傾向」が最近若い批評家の中に・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
出典:青空文庫