・・・しかしこの有機体の細胞であり神経であるところの審査員や出品者が全部入り代らない限りは、変化とは云うものの、むしろ同じものの相の変化であって、よもや本質の変化ではあるまい。それで今私が頭の中に有っている「帝展の心像」を取り出して、それについて・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・二科会の今年の出品中の若干の人間の首などにはやはりそんなのがある。しかしメストロウィークを崩したような大物になると、どうにも自分などのようなものの好意の圏外に飛出してしまう。 美術院はほとんど素通りした。どちらを見ても近寄ってよく見よう・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・の人から珍しい書信なので、どんな用かと思って読んでみると、 郷里の画家の藤田という人が、筆者の旧宅すなわち現在T氏の住んでいる屋敷の庭の紅葉を写生した油絵が他の一点とともに目下上野で開催中の国展に出品されているはずだから、暇があったら一・・・ 寺田寅彦 「庭の追憶」
・・・不折の如きも近来評判がよいので彼等の妬みを買い既に今度仏国博覧会へ出品する積りの作も審査官の黒田等が仕様もあろうに零点をつけて不合格にしてしまったそうだ。こう云う風であるから真面目に熱心に斯道の研究をしようと云う考えはなく少しく名が出れば肖・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・ここには、父の肖像を描いて二科に出品した鶏二さんの心持とは恐らく異っているだろうと思われるものが脈うっている。蓊助君は、漫画修行による人生観察の過程で、旧套の重荷に反撥して自らを破ることが、新世代にのしかかる圧力を克服することではないことを・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 最後の日にほんの二、三時間見ただけですから、ずいぶん杜撰な印象だろうと思いますが、全体からうけた印象では、この展覧会に出品している方々は、それぞれの個人、それぞれのグループで、熱心に、古い客間の装飾用としての洋画から、ほんとうに今日に・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・をつかまれたように感じて立ち止るような絵には出会うことが出来なかった。 この洋画の部では、去年「老婆」を出品して一般の注意をひいた漫画家の池部鈞氏が今年は「落花」という小さい絵を出し、二列に並べたところの上の方に一寸かけられている。「落・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・ 第三回プロレタリア美術展は出品点数二百十七。出品画家は百名を越えている。初めに書いたように、おしまいは四辺が暗くなってしまった位だから、こまかく一つ一つについていえない。 彫刻は、うまいもんだ。・・・ 宮本百合子 「プロレタリア美術展を観る」
・・・ゴーリキイの当時までの全著作、原稿、様々の写真等が陳列され、興味の深い統計表も出品された。それはロシアの大衆がどういう作家を一番愛読しているかということについて統計をとったものであった。古典作家ではトルストイが第一であった。現代作家としては・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・はサロンで二等になったにもかかわらず、若い娘の作品にしては立派すぎる、非常によいことが却ってさまざまな中傷を産んで、当然として周囲からも期待されていた金牌は、第三位の永年サロンに出品している芸術的には下らない画家に与えられたのであった。マリ・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫