・・・そうしてさらに詳しくいえば、純粋自然主義はじつに反省の形において他の一方から分化したものであったのである。 かくてこの結合の結果は我々の今日まで見てきたごとくである。初めは両者とも仲よく暮していた。それが、純粋自然主義にあってはたんに見・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・あひるの場合でもやはりいわゆる年ごろにならないと、雌雄の差による内分泌の分化が起こらないために、その性的差別に相当する外貌上の区別が判然と分化しないものと見える。それだのに体量だけはわずかの間に莫大な増加を見せて、今では白の母鳥のほうがかえ・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ ともかくも人間の物を考える考え方の形式は科学以前から存在し発達し分化して来たものであって、その一部の屋庇の下に現在の科学が発達した。しかし科学の庇の下に発達したものの根源は科学以前から科学の具体的内容とは無関係に存在する人間固有の悟性・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 科学の進歩に伴う研究領域の専門的分化は次第に甚だしくなる一方である。それは止むを得ないことであり、またそういう分化の効能が顕著なものであるということについては今更にいうまでもないのであるが、この傾向に伴う一つの重大な弊は、学者が自分の・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・ このような小動物の性情にすでに現われている個性の分化がまず私を驚かせた。物を言わない獣類と人間との間に起こりうる情緒の反応の機微なのに再び驚かされた。そうしていつのまにかこの二匹の猫は私の目の前に立派に人格化されて、私の家族の一部とし・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・このような原始的な器械にそんな分化があろうとは予期していなかった。どちらにしようかと思ってかわるがわる二つの鋏を取り上げてぐあいを見ながら考えていた。なるほど芝を刈るにはどうしても専用のものがぐあいがいいという事は自分にも明白に了解された。・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・政治法律経済といったようなものがいつのまにか科学やその応用としての工業産業と離れて分化するような傾向をとって来た。科学的な知識などは一つも持ち合わせなくても大政治家大法律家になれるし、大臣局長にも代議士にもなりうるという時代が到来した。科学・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・はこれまでの風景に比べて黄赤色が減じて白と黒とに分化している事に気がつく。これは白日の感じを出しているものと思われる。果物やばらのバックは新しいと思う。「初夏」の人物は昨年のより柔らかみが付け加わっている。私は「苺」の静物の平淡な味を好む。・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・それは人間の団体、なかんずくいわゆる国家あるいは国民と称するものの有機的結合が進化し、その内部機構の分化が著しく進展して来たために、その有機系のある一部の損害が系全体に対してはなはだしく有害な影響を及ぼす可能性が多くなり、時には一小部分の傷・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・こういうふうに、互いに相容れうる範囲内でのあらゆる段階に分化された諸相がこの狭小な国土の中に包括されているということはそれだけでもすでに意味の深いことである。たとえばあの厖大なアフリカ大陸のどの部分にこれだけの気候の多様な分化が認められるで・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫