・・・集団して生きる部族の政治は、ひとかたまりに生きてゆくやりかた、としてはじまって、やがて階級分化を行った人の集団と集団間のいきさつとなっていった。生きてゆくやりかた、の根源には、その集団の定着した地域の自然的条件が重大に関係した。その意味で、・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 級の小さい頃は漠然と仲よしで一組になっていた男の子と女の子とが七年生ぐらいになると、一種の発展的分化をおこす。 小学校の退けどき、賑やかな一団にまぎれ込んで歩いて見ると、小さい級の子供は男の子も女の子もゴチャゴチャだ。冬、むっくり・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・インテリゲンチアの急速な階級的分化の必然はわかっているのであるけれども、自分はさまざまの理由からその移行ができないことについての自己嫌悪。そのような内容をもつものであったと思う。それらの人々の当時の不安は、自分たちの生活の無内容を、より積極・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・そして、一寸見ると近代的に分化しているようでも実は封建的なギルドに陥り、ファシズムに対する抵抗力の弱められている自分たちの状態をそれらの人は急速に克服しようとしている。〔一九四八年七月〕・・・ 宮本百合子 「前進的な勢力の結集」
・・・今日の知識人は著しい社会の階級的分化の間に生きている。明治初年から興隆期にかけてのごく短い期間は、日本のインテリゲンツィアも知的進歩性は摩擦少なく興隆する支配力と共にあり得たのであったが、現在では、真実の知性は社会的矛盾を観破し、帰趨を明ら・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・それから二十年ばかりの歳月が経つと、娘は益々建築家としての父の業績を愛し、理解しようと欲することが激しくなって来たのですが、父の側では、事務所の内部的組立が経営的に分化し、組織化され、父自身は元のように最初のスケッチから細部のプランまで自身・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・p.261◎われわれの認識の豊かさに徴して明かな通り、われわれが過去に比して感情の一層分化した最初の人間である、という暗示をわれわれに最初に与えたのが 彼であったのである。 ×しかし時を経て、今日この不幸な分化の終焉はせまっている。・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・従って一方には自己の情緒を深め、強め、あるいは分化させる必要が起こって来る。画の上で新境地を開拓するためにはまず内に新境地を開拓しなくてはならないのである。が、また他方では自然について学ぶということも一法であろう。すなわち情緒表現の道と並行・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ まず私は、人間の心のあらゆる領域、すなわち科学、芸術、宗教、道徳その他医療や生活方法の便宜などへの関心等によって代表せられる人間の生のあらゆる活動が、なお明らかな分化を経験せずして緊密に結合融和せる一つの文化を思い浮かべる。そこで・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・その所作事が劇に転化するに従って登場する人物は複雑となり面もまた分化する。かかる面を最初に芸術的に仕上げたのはギリシア人であるが、しかしその面の伝統を持続し、それに優れた発展を与えたものは、ほかならぬ日本人なのである。 昨秋表慶館におけ・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫