・・・ ところが資本主義の経済生活は、漸次に種子をその土壌から切り放すような傾向を馴致した。マルクスがその「宣言」にいっているように、従来現存していたところの人々間の美しい精神的交渉は、漸次に廃棄されて、精神を除外した単なる物的交渉によってお・・・ 有島武郎 「想片」
・・・それより以下は八犬後談で、切り離すべきである。『八犬伝』の本道は大塚から市川・行徳雨窓無聊、たまたま内子『八犬伝』を読むを聞いて戯れに二十首を作る橋本蓉塘 金碗孝吉風雲惨澹として旌旗を捲く 仇讎を勦滅・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・女性は美しく、力強い男性を選ぶのだが、善い、高貴な素質をそなえた男性をこれと切り放すことなしに求めねばならぬ。恋愛するときに、この徳への憧れが一緒に燃え上がらないようなことではその女性の素質は低いものであるといわねばならぬ。何故なら恋愛する・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・しかしこれを経験した私にとっては、どうしてもこれを二つの別々の経験に切り離して考える事が困難に思われる。切り離すと、もうそれは自分の活きた経験でなくなって、まるで影の薄い抽象的な「誰でも」の知識になってしまう。 吾々は学問というものの方・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・ドイツ書の装幀なり印刷なりにはドイツ人のあらゆる歴史と切り離す事のできないものがあると同様にフランスの本にはどうしてもパリジアンとパリジェンヌのにおいが浮動している。たとえ一字も読めない人に見せてもこの著しい区別は感じられないではいられまい・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ ブルノは学問と宗教と生命とを切り離す事ができなかった。デカルトではこれが分化されていたように見える。ガリレーはその二人の途中に立って悩んでいたのであろう。 この夢を見た夜は寝しなに続日本紀を読んだ。そうして橘奈良麻呂らの事件にひど・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・甲武線の崖上は角並新らしい立派な家に建て易えられていずれも現代的日本の産み出した富の威力と切り放す事のできない門構ばかりである。その中に先生の住居だけが過去の記念のごとくたった一軒古ぼけたなりで残っている。先生はこの燻ぶり返った家の書斎に這・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・けれどももし倫理的の分子が倫理的に人を刺戟するようにまたそれを無関係の他の方面にそらす事ができぬように作物中に入込んで来たならば、道徳と文芸というものは、けっして切り離す事のできないものであります。両者は元来別物であって各独立したものである・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・ちょうどこの白墨について云うと、白い色と白墨の形とを切離すようなものでこの格段な白墨を目安にして論ずると白い色をとれば形はなくなってしまいますし、またこの形をとれば白い色も消えてしまいます。両つのものは二にして一、一にして二と云ってもしかる・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・、農村の文化を創るものは農民である、という農本主義的の考え方は、現代においては農民自身の幸福のために、欠くべからざる協力者である都会の労働者と、進歩的な知識階級人とを文化的にはもっともおくれた農民から切り離すための役割しか演じていない。もし・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫