・・・それで、「誰某は偉い奴だ、史記の列伝丈を百日間でスッカリ読み明らめた」というような噂が塾の中で立つと、「ナニ乃公なら五十日で隅から隅まで読んで見せる」なんぞという英物が出て来る、「乃公はそんなら本紀列伝を併せて一ト月に研究し尽すぞ」という豪・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・スがまた楽音の協和と整数の比との関係の発見者であり、宇宙の調和の唱道者であったことはよく知られているようであるが、この同じピタゴラスが豆のために命を失ったという話がディオゲネス・ライルチオスの『哲学者列伝』の中に伝えられている。 このえ・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・子の著『猿論語』、『酒行脚』、『裏店列伝』、『烏牙庵漫筆』、皆酔中に筆を駆ったものである。 わたしは子の遺稿を再読して世にこれを紹介する機会のあらんことを望んでいる。大正十二年七月稿・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・一つは、左翼的な或る作家の経験であるが、そのA氏は日本の企業界で歴史的に有名な或る会社の現実を、芸術に描こうと発意し、日本の実業家列伝中でも巨星であるその会社の創始者のやりかたなどを定型的資本家の観念で考えていた。創作の準備がすすむにつれ実・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・そうしてみると、唐書の列伝に出ているはずだというのである。しかし閭がいなくては話が成り立たぬから、ともかくもいたことにしておくのである。 さて閭が台州に着任してから三日目になった。長安で北支那の土埃をかぶって、濁った水を飲んでいた男が台・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
出典:青空文庫