・・・これが明らかとなって初めて、ある特定の意志決定がどの程度まで道徳にかなっているかを判断することができるのである。倫理学はかかる問いに答えることを任務とする。それは行為とそのあり得べき結果との多様な、人間の精神に依従しない関係の認識を要しない・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 勿論、彼等は、もう、白布の袋の外観によって、内容を判断し得るほど、慰問袋には馴れていた。彼等は、あまりにふくらんだ、あまりに嵩ばったやつを好まなかった。そういう嵩ばったやつには、仕様もないものがつめこまれているのにきまっていた。 ・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・それで順番に各自が宛がわれた章を講ずる、間違って居ると他のものが突込む、論争をする、先生が判断する、間違って居た方は黒玉を帳面に記されるという訳なのです。ですから、「彼奴高慢な顔をして、出来も仕無い癖にエラがって居る、一つ苦しめて遣れ」とい・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・けれども、いつまで見くらべていても判断がつかないので、どうしたらいいかとこまっていますと、一人の方が、片足をかすかに前へ出しました。目には見えないくらい、ほんの少し動かしただけでしたが、ギンにはその片足の靴のひもが、さっきちらと見たように、・・・ 鈴木三重吉 「湖水の女」
・・・その飾り窓には、野鴨の剥製やら、鹿の角やら、いたちの毛皮などあり、私は遠くから見ていたのであるが、はじめは何の店やら判断がつかなかった。そのうちに、あいつはすっと店の中へ入ってしまったので、私も安心して、その店に近づいて見ることが出来たのだ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 邸あたりでは、人生一切の事物をただ二つの概念で判断している。曰く身分相応、曰く身分不相応、この二つである。ポルジイがドリスを囲って世話をして置く。これは身分相応の行為である。なぜと云うに、あれは伯爵の持物だと云われても、恥ずかしくない・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・それにしても彼が幼年時代から全盛時代の今日までに、盲目的な不正当なショーヴィニズムから受けた迫害が如何に彼の思想に影響しているかは、あるいは彼自身にも判断し難い機微な問題であろう。 桑木博士と対話の中に、蒸気機関が発明されなかったら人間・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・私には判断がつきかねた。「雪江はどうです」私はそんなことを訊ねてみた。「雪江ですか」彼は微笑をたたえたらしかった。「気立のいい女のようだが……」「それあそうですが、しかしあれでもそういいとこばかりでもありませんね」「何か・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・ ツルゲネーフはまだ物心もつかぬ子供の時分に、樹木のおそろしく生茂った父が屋敷の庭をさまよって、或る夏の夕方に、雑草の多い古池のほとりで、蛇と蛙の痛しく噛み合っている有様を見て、善悪の判断さえつかない幼心に、早くも神の慈悲心を疑った……・・・ 永井荷風 「狐」
・・・――これは提灯の火に相違ないとようやく判断した時それが不意と消えてしまう。 この火を見た時、余ははっと露子の事を思い出した。露子は余が未来の細君の名である。未来の細君とこの火とどんな関係があるかは心理学者の津田君にも説明は出来んかも知れ・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫